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路地裏のサボテンたち

2017/08/13
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昔は、園芸と云うものは「年寄りの道楽」とされた。

小生の子供の頃に育った東京の下町は、昭和30年代には細い路地が網の目のように入り組み、間口1間というような小規模住宅が所狭しと林立し、とうぜんアスファルト舗装などはなく土がむき出しの江戸時代から踏み固められた小径(こみち)で、湿気とカビ臭い独特の匂いが漂う中を走り回って遊んだ記憶がなつかしく思い出される。

どの家もタダでさえ狭い玄関の脇に何段にも設えた鉢置き棚(今風に云うとフラワースタンド)を立てて、各々好みの鉢植えを並べていた。

それも園芸店などで買った物などほとんどなく、近所や知り合いからもらって来た草木。

入谷の朝顔市や浅草寺のほおずき市で買って来た鉢物もあるにはあったが、昔の庶民は倹約家が多くその日暮らしの職人や貧しい家庭などは植木にカネを使うなど贅沢と考えた。

それでもどんな階層の人も緑のある生活に心の癒しを求める心情はいつの時代も同じ、鉢物を家に飾り生活に潤いを与えようとした。


鉢だってアサガオ鉢(駄温鉢)なら上等な方で、トマトの業務用缶詰の空き缶・欠けた火鉢・町工場からもらって来た一斗缶・腐れかかったリンゴ箱など、玄関の出入りにジャマだろうに家の周りにびっしりと並べてる風景があった。

ひどいのになると割れた七輪を針金で巻き中に空き地のゴミ土を入れてヤツデやアオキなど日陰でも育つ木を植えて立派に育ててる家もあった。
横壁に棚を作り、万年青(おもと)・イワヒバ・軒シノブ・種々の盆栽を置いてる家もたくさんあった。

現代のようにホームセンターなどない時代の話、物もカネもない庶民は生活に追われる中でもいろいろな工夫をして園芸を楽しんでいたのだよ。

中にゃ猫の額ほどの中庭を持つ家もあったが、板塀で隣の土地との境界線を仕切ってあり、板の端を前後に張り目隠しと同時に通風を図る大和張り(やまとばり)と称する種類の塀が多かったように記憶してる。

その板塀にゃくせぇ防腐剤を塗ってあるのだが、数年も放っとくと板が腐って割れ、猫や犬が出入りしたり通行人や近所の住民が近道に通り抜けたりする。

今だと「住居侵入」で通報されるが、あの当時の東京っ子はそんな野暮なマネはしねぇ。

いや、仮に通報したくったって電話がねぇから交番へ走ってくしかないが、そうしてるうちに通行人はいなくなる。

「お前ぇさん誰だい? 通り抜けはいいんだがよぉ、花ぁ踏まねぇようにしちくれよ」

大抵はこんな風に穏やかに声をかけ 通行は大目に見たものだ。

のどかな下町の「三丁目の夕日」の時代。

あんな人情あふれる風景はもう永遠にかえって来ねぇだろうねぇ。


どの家も屋根の上に物干し場があって足元に鉢を並べたりしていたが、サボテン多肉などの雨ざらしが憚られる鉢植えは軒下に棚を作って並べる。

屋根だって低所得層(昔は貧乏人と云った)の家が多かったから、甍(いらか)は最小限の張り出しに留めてるので少し風交じりの雨が降りゃぁ陽さしの恩恵にあずかれず雨ざらしとなんら変わらない置き場、狭い家屋に鉢の置き場などの余分な場所は少なくそれは致し方なかったろう。

サボテンじゃいわゆるウニサボテンの短毛丸・金盛丸・花盛丸。

柱サボテンの金紐・白檀、ポコポコ仔吹きして群生する金毛丸。
盆栽の平鉢に植えてちょうどいい草姿、これらは案外と根が浅く平たい鉢に植え付けられる。

やたら仔吹きしまくって鉢からはみ出し、仕方ないので近所におすそ分け。
結果、向こう三軒両隣に同じタイプのサボテンだらけ。

中にゃどっかの植木屋で買って来たらしい風情の「接ぎ木物」。
真っ赤な緋牡丹を三角柱や黄大文字・袖ヶ浦に接いであって、路地裏を歩いてても鮮やかさでひと際眼を引いたものだ。

多肉じゃ、現代もあっちこっちに植えられてる木立アロエ、エケベリアの七福神、グラプトペタルム朧(おぼろ)月、中型のアガベ類。
深い軒下にゃガステリアの虎の巻・墨鉾や小型変種の子宝。

今と違って種類は限られてたけど、それぞれ日本家屋の隅っこに置かれ少ない日照を巧みに当てて枯れさせもせず上手に栽培していたものだ。

用土だって現代のように園芸店・ホームセンターへ行きゃぁどんな種類の土・腐葉土が買えるような時代じゃない。

その辺の原っぱ・空き地で掻き出して来た泥(ドロ)で植え込んで、それでも根腐れが頻発した話などあまり聞かなかった。
まぁ、どんな用土でも栽培できるような剛健種だけが「人為淘汰された」とも云えるけど。


そんな路地裏の貧弱な棚に飾られてたサボテン多肉たちにノスタルジーを感じるのは小生だけだろうか。

古き良き時代を忘れるのは「未来を見据える」現代人の美徳。
いつまでも昔を思い出して懐かしがるなど未練たらしい老人の繰り言。

「もっと将来に希望を見出して前向きに生きるべきだ」

これがキョービの日本人の最大公約数的意見なのだろう。(どっかで聞いた風な能書きだが)
まぁ、それに否やを唱える気もないけど。


紅顔の美少年?も歳を喰っちまった、ってことだろうね。


「昭和は遠くなりにけり」ってネ。



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