紙魚淑女さんの園芸日記
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紙魚淑女さん  東京都
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その川を渡れ

2013/06/07
その川を渡れ 拡大 写真1 その川を渡れ 拡大 写真2 その川を渡れ 拡大 写真3

爪に白い小さな模様が浮くのを、星が浮くという。
爪に星があるのは、幸せな子だといわれると、
昔誰かから教わった。

指先の逆剥けは親不孝者の証だという。
衝動的で感情的な私は、
皮膚が荒れていなくても自ら指先を逆なでしては
爪の生え際をささくれさせてわざと、逆剥けを作っては剥いでみる。
自分の不甲斐なさが胸中で暴れるときに、
言葉に出来ない思いが、舌の上で黒くなるときに。
人に見られては、恥ずかしい思いをするのにそれを止められない私は、
真の親不孝者だとつくづく思う。

左手の小指の腹に、
いつの間にか小さな血豆のようなものがあった。
学生の時分だったか、社会人になってからなのか、
出来たのが何時なのか、今となっては分からない。
針で一突きしたような、その血豆のようなものは触ると芯があって、
爪で押すと、すっと皮下に潜り見えなくなるのに、
しばらくしていると、また浮いてくる。
痛みもなく、指先に違和感も無く、
それはいつのまにか私の指先に来て、そうしてずっとそうしている。

私の指の腹に出来た何かを、私は星と呼んでいた。
指の星。
時々そっと撫でてみたり押してみたりしながら、
感触を確かめ存在を確かめる。
私の星。

私は、生きるのが下手な親不孝者で、
それでも
爪に星はないけれど指に星があるのだから、
きっと幸せな子だといつの間にか思うようになっていた。

数週間前、指の腹に違和感があるので、
見てみれば星が皮膚を持ち上げて、浮いているように感じた。
自らを傷つける事に躊躇しない私は、
まち針で星を掘り出せるかと探ってみたが、
上手く捉えることが出来ないまま、瘡蓋だけが出来た。
その後、瘡蓋もとれて、気づいたら、
指の星はいつの間にか消えてしまっていた。
押してみても、芯のようなものが無い。
どうやら本当に消えて無くなってしまったらしい。
星の正体は、もはや分らず仕舞である。

独り住まいの部屋のベランダにでる。
ずらりと並べられた植物の中の一鉢に蕾が出来ているのに気付いた。
クラッスラ:紀の川と名付けられた植物の花は、
オレンジ色の小花が散らばる。
いつか図鑑で見た、 遠い星雲のようだった。

ここにも星が散る。

長い旅道行けば、 途中に川も流れていて私はそれを渡るのだろう。
膝を濡らすか、胸まで浸かるか。
水の嫌いな私は、我武者羅に流れをかき分けて対岸を目指す。
目の前の川を渡らずに迂回する術を、持ちあわせていない。
その川を渡れ。
見えぬ星はいつでも頭上で瞬いているだろう。
指先から消えたとしても。

さよなら、私の星。

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