紙魚淑女さんの園芸日記
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紙魚淑女さん  東京都
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刃先に宿る

2013/11/22
刃先に宿る 拡大 写真1 刃先に宿る 拡大 写真2 刃先に宿る 拡大 写真3

上司から出張土産に鋏を貰った。
新潟の燕三条で作られた剪定鋏である。
他にお菓子やら何やらあったような気もするが、そっちのけで、
鋏の箱を開けて、刃先を見ながらニヤニヤしている。
喜ぶという意味では分りやすいだろうが、
可愛げのない不気味な部下だろうと、自分でも後から思う。

鋏が好きなのは、前職のせいだ。
鋏一本で木を仕立てるのが、京の植木職人の腕だと
何度も何度も耳にタコが出来るくらい聞かされて過ごしたから
植木鋏が気になって仕方がない。
自宅の鋏を数えたら何丁あるのか、自分でも分らない。

樹の上っ面を刈り上げて仕上げる他の土地の剪定方法と違い
京の仕立ては「透かし」と呼ばれる。
枝一本一本の芽を予測しながら、細かく内側から剪定していく。
幹に近い根元から枝先まで、計算されつくした剪定によって
作られた枝が、まるで透かし模様のように樹を形作る。
立体のレースのような剪定方法だ。
「透かしができなきゃ、京の職人やない」
丁稚奉公の最初の3年は、
大きな刈り込み鋏しか鋏は持たせてもらえないから、
途中で逃げ出した私の腕に、透かしの技術はない。

京都の職人独自の道具に「きりばし」がある。
鋏の柄の部分が、まっすぐになっていて、
やっとこの先に刃がついたような形の剪定鋏だ。
鋏で切る仕事をする他に、柄の部分を紐に掛けて
玉掛け作業に使ったりする。
同じ関西でも、大阪や兵庫の職人は使わない。
京都だけの鋏だ。

造園屋に入って、道具を揃える時に
きりばしを購入するかどうか迷ったが、その時は買わなかった。
先輩たちも、普通の植木鋏を使う事が多いようだったし、
なにより私の手には男手のサイズの鋏は大きすぎた。
自分が何になりたいのか。将来どうやって生きていくのか、
迷いに迷って苦しんだ1年間だった。
自分にも、周囲にも、私がこの職場に合わない事は歴然としていて
それでも居場所をみつけたようなふりがしたくて、
秋になってもう一度道具屋に行き、自分の手には馴染まない
きりばしを買い求めた。
その時点ですでに、次の春には辞めようと決めていたのに。

春になって、挨拶も済んで、荷物も纏めて京都を出る支度をした時、
一度だけ下宿の庭先のキンモクセイを切るのに使ったきりの、
きりばしをどうするか考えた。
手元に残しておくか、誰かに譲るか。
考えた果てに、同じ時期に奉公に入った丁稚の子に譲った。
「いいの?いいの?」と聞かれて、「もう使わへんから」と答えた。
京都の3月はまだ寒くて、比叡山も御所も、
乾いた空気の中では、白けて見えた。
解放された喜びと同じくらい、逃げ出した情けなさが、
胸の奥から込み上げて、新幹線のホームで足踏みした。

東京でついた仕事で5年が過ぎた時、やっと丁稚があがれると
心底ほっとした。
お礼奉公する親方も、女将さんもいないけれど、
やっと自由になれる気がした。
最初に買った植木鋏は、これからもずっと私の手先の一部だが、
未だに京都駅のコンコースを出て、京都タワーの下に立つと、
きりばしを買い求めるべきではないかと、一瞬考える。
譲ったきりばしは、どうなったろう。
あの子はあれを、使ってくれたろうか。

新しい鋏をおろす日は、良い仕事を始める天気の良い日に。
誰に言われた訳でもないけど、
縁起を担ぐと良さそうな気がする。

刃先に宿るのは、何なのか。
逡巡も哀しみも苦しみも、決断も喜びも満足感も
綯えば綯うほど、掌に食い込む爪の間を黒く染め上げる
棕櫚縄のように一本に繋がっている。
切り落とすのは、いつだって自分だ。

「刃先に宿る」関連カテゴリ

みんなのコメント(4)

感慨深いなぁ。。
人生の送り方はリスに比べて遙かに複雑。。
長生きするせいかなぁ、、80年近くどんぐりばっかり拾ってたら飽きちゃうもんなぁ。。

女性は心と頭の中にも美容院持ってますよねん。
残酷なほどにスパッと切れ味のいいやつあっかんべー
殆どの男性は、持ってない。
鋏ではなく幻想の紐で繋げて、引きずったりするのが得意あっかんべーあっかんべー

しかしこの刃先は宿ってるね〜ぴかぴか(新しい)
スパッと切る!とゆー意思がギラギラしてるっすげっそり

返信する

誰からも助けられずに
海に落ちたガラスのかけら
傷つける気はないのに
近寄るものは誰でも傷つく
とんがって生きて行きたくなかったのに
不用意な生き方

海に落ちたガラスかけら
自分の身の不自由を呪いながら

海の落ちたガラスのかけら
時と遊んでひねもすのたりのたりかな
世界中の潮に乗って
何処へでも流れてゆく
世界中の旅が終わる頃

ガラスの破片は大人になって
ころころ転がるシーグラス
砂浜に辿り着く夢を見ながらひねもす       ころり

違った意味の鋭さは研ぎ澄まされた
鋏の重圧感とは違って
少し軽いガラスのかけらの鋭さ

濃密な闇の中で
重厚な鋏に負荷の掛かる時
一瞬にして切り落とす

美しくもあり
残酷でもあり

鋏のゆえに背負う生き様
宿るものは冷たく美しい

返信する

りす吉様
ドングリだけ拾ってるのはつらいな。
クリも拾いましょうか。

女が持ってるのは刀だけれど、
男が持ってるのは鋸ですかね。
まだ、わかんないや。
そこまで押したり引いたりされてないんだろうなぁ。

うふふふふ。ギラギラの刃の新しい鋏。
いつ使おうか、ワクワクしてます。

返信する

いちみ様
美しいものは、容赦ないですよね。
躊躇とか、戸惑いとかは寄せ付けない。
すっぱり、鮮やかですね。

使う者の目も心も、そこまですっぱり研ぎわたっていると
いいんですけど・・・・。
なかなか、思ったようにはいかないのが、
この世の常でしょうか。
シーグラス程、まるくなれたら、それはそれで本望なのですが。

返信する
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