紙魚淑女さんの園芸日記
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紙魚淑女さん  東京都
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2017年07月
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あどけなくない続きの空を

2017/07/09
あどけなくない続きの空を 拡大 写真1 あどけなくない続きの空を 拡大 写真2 あどけなくない続きの空を 拡大 写真3

人生で10回目に引っ越した部屋は、大きな窓の部屋だった。
思いついたその足で不動産屋に駆け込み即決した理由は色々あるが、
一つは窓が多くてベランダが恐ろしく広いことだった。
自分の収入から考えると、少し分不相応な家賃だったが、
薄氷の如き日々を重ねる中で、
己の落ち着く屋根の下が何よりも大切だと思うと
懐が多少痛むこと位、なんということはないと思った。

五線譜ならぬ三本の電線の遥かむこうに富士山が見える。
この線に並べた私の音符の連なりは不協和音の続く狂想曲。
悔しさや怒りや虚しさや寂しさにほんの少し喜びや驚きを足して
淡々と時計の針を回した。
朝、富士山の雪化粧がみえると何か幸先のよさそうな気がする。
夜、富士山のシルエットがみえると何か安心して眠れる気がする。
風景に拘るような性格ではないはずだが、
一つの山が見えるだけで気の持ちようが変わる単純な自分に
気付かされたのは新鮮だった。

晴れた日には朝でも昼でも夜でも、
ベランダに寝転んで空を見上げると
雲も飛行機も鳥も、皆々大らかに進んでいく。
どこまでも続いているのに、私だけのもののような気がして
飽きることなくいつまでも眺めていられた。

高村千恵子は東京には空が無いと光太郎にうったえたらしい。
安達太良山の上に出ている青い青い空を彼女は求め続け、
そして精神の均衡を失うことで自由を得、
些末な日常から解放された。

人が生きていくのに必要な広さは幾らぐらいだろう。
寝て起きて座して物食らうだけの繰り返しに必要ならば約2畳。
私がこんなにも広さを求めるのは何故なのだろうか。
何から解放されることを待ち望んでいるのだろうか。

11回目の引っ越しを控えて、
蒼色に染まっていく街並みと富士山を見つめながら
逝きそしてまた生まれ来る己に思いを馳せて、
私は街と山と空に別れを告げた。
あどけない話だけでは生きていけないことを知っているから
私は明日も空の下にいる。

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