紙魚淑女さんの園芸日記
写真

他のプロフィール画像を見る

紙魚淑女さん  東京都
お気に入りメンバーに登録
2017年08月
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
3

ビルの谷間にて

2017/08/08
ビルの谷間にて 拡大 写真1 ビルの谷間にて 拡大 写真2 ビルの谷間にて 拡大 写真3

信号の手前で歩行者の足元をぬって
白くぬるりとした生き物がちょよこまかと歩くのに
気付いた。
尾鰭適合性委員会のき打ちの調査らしい。
私の他に気付いている人は居ないようなので
素知らぬふりを保ちながら、
そっと一定間隔を置いて追い掛けてみる。
委員会が使っている生物の事は、
非回覧板を見て知っていたけれど
実物を見るのは初めてである。
白色の毛はビロードのように見えて、
胴体と細い尻尾が一歩脚を出すたびに、
くねくねと動くので実際の長さ以上に長く見える。
三角の耳はぴったりと寝ているけれど、
時々片方ずつピクっと立って音を拾っている。
ヌタトウフネズミという名前が見た目通りの名前なのだと
妙に感心してしまった。

ネズミがビルの間の細い隙間に入り込んでいったのを
追いかける。
隙間には入り込めたものの、奥に進むにしたがって
どんどん隙間が細くなるので、どんどん関節を外していく。
肩を外したり、足首を外したりするのは簡単だが
腰を逆折にするのに手こずっている間に
ネズミが先に進んでいく。
慌てて首を外してみたものの、
遂にネズミの姿は見えなくなっていまった。

ぐらぐらする頭でぼんやりしながら、
すえたコンクリートの香りがする暗闇に蹲っていると
音が聞こえる。
違うネズミの小さな爪がコンクリートを引っ掻く音。
どこかのビルの一室でベットのスプリングの軋む音。
排水溝の底からいじけた呪詛の呟き。
どれもこれも、うっとりするくらい薄暗くて
どれもこれも、うんざりするくらい厭らしい。
耳をそばだてているうちに、外した関節の端から
私の身体も薄汚れていくのが見えたので、
もう頃合いだと気付き立ち上がる。

お家に帰ろう。
私が洗濯した清潔な白いシーツが敷かれた部屋で
尾鰭も背鰭も付いていない生き物になりにお家へ帰ろう。

「ビルの谷間にて」関連カテゴリ

みんなの趣味の園芸にログイン/登録する

※コメントの書き込みには会員登録が必要です。

会員登録がお済みの方は

会員登録をすると、園芸日記、そだレポ、アルバム、コミュニティ、マイページなどのサービスを無料でご利用いただくことができます。

ピックアップ
定期購読
投稿募集中 from テキスト編集部
見て見て!お気に入りの花

見て見て!お気に入りの花
自慢の植物・庭の写真を募集中!

みんなのマルシェ

みんなのマルシェ
自慢の畑・野菜の写真を募集中!