紙魚淑女さんの園芸日記
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紙魚淑女さん  東京都
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さよなら明日

2018/03/12
さよなら明日 拡大 写真1 さよなら明日 拡大 写真2 さよなら明日 拡大 写真3

夜の上に昇り、海を越えると昨日の時間に着いた。
父と母が乗った車に手を振って歩き出し、
車窓から眺めた夕暮れの光が
もう一度海に沈み行くのに出会った。

雲を桃色に染め上げ、
珊瑚礁の島に打ち寄せる長いレース状の波を
金と銀に光らせながら降りていく夕陽を
バルコニーから眺めながら私は、
母と父を思った。

いつでもどこでも夕陽を見ようと母が言う。
父はいつも、黙ってそれに付き合う。
夕暮れが近付くと何故か泣きたくなる私には、
その心持ちがわからずに居心地の悪い時間を
重ねてきた。

母の気持ちの一端が今なら分かる気がした。
一つ屋根の下、
人生を共にする事を決めた人とその子達と、
不変に美しいものを共有することの喜び。
父の気持ちの一端も今なら分かる気がした。
近しい人の喜ぶ時間を受け入れようとする姿勢。

そしてやっと、
もう父と母の庇護の下にいない事に気付いた私は
不安に震えあがり、
それでも今ならば夕陽を見ていたいと思えるのは
1人で生きていく恐怖が少し薄らいだからだと、
部屋の中から私を見守る視線を背中に感じて、
やっぱり泣きたくなるのだ。

桃色の雲も金色の波も藤色の空も銀色の水面も
全てが美しく、
私が泣けて仕方ないのは
愛されている実感が眼に沁みるからなのです。

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