渋谷区ふれあい植物センター 軟式さんの園芸日記
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渋谷区ふれあい植物センター 軟式さん  東京都
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或る日~インターン生の夏~ 2

2012/08/10
或る日~インターン生の夏~ 2 拡大 写真1 或る日~インターン生の夏~ 2 拡大 写真2 或る日~インターン生の夏~ 2 拡大 写真3

目の前に積み上げられた色とりどりの花たち。
私は、一心不乱にその花の摘み取り、花弁をむしり取っては
紙の上に並べていく。

「紙の上に、花を並べるだけの簡単な仕事です。
花がいっぱい。賑やかで楽しい職場が人気。」

アルバイト情報誌のくだらないキャッチコピーのような台詞が
頭をよぎる。
きっと、大学1・2年の頃なら、即行で面接の申込をしただろう。
気楽に登録して、辛かったら直ぐ辞めればいい。
友達と遊ぶ予定が入れば、誰かに代わってもらえばいい。
そんなお気軽な時間は終わってしまった。
自分で決めて、自分で進めて、自分で責任をとる。
終点を知らない列車は、自ら乗り込んだ私を乗せて
発車する寸前だ。

吸水紙の上の花たちは、私への手向けの花か。
それとも葬列そのものか。
山のような花は摘んでも摘んでも減った気がしない。


3日後。
夏にうかれた子供たちの中で、私は右往左往していた。
夏休み子供スクールの一こま。

説明を受けた子供たちは、水を撒き散らしながら、紙を漉いた。
初めは騒がしかった室内が徐々に静かになる。
押し花を各々選び、自分の好きなデザインに仕上げる段階になると、隣の子とふざける事など忘れてしまったようだ。

同じような形なのに、息をつめて自分好みの一枚を探す子。
赤と黄色のどちらを選ぶべきか、悩みこんだままの子。
葉書の用途を為さないほど、全面に花を敷き詰める子。

「綺麗ねぇ。どうやって作ったの?」と1人の子が尋ねた。
「作ったのは、あの人だから、あの人に聞いてごらん」と
指名されたのは、私だった。
一瞬、頭が真っ白になる。
そりゃ、並べたけど。毎日紙も換えたけど。
私に説明させるなんて!職務怠慢じゃないか。
しかし質問した少女は、私の答えを待っている。

「お花を摘んでね、重ならないように紙に並べるの。
その紙を重たい本の下に置いて、
上から重い物を沢山載せるんだよ。
そしたら、お花がぺっちゃんこになるの。
お花の中のお水が全部出て、花がパリパリになるまで
毎日、紙を換えるんだよ。」
説明は通じたのだろうか。

「お姉ちゃんが作ったの。凄いね。」
少女の瞳には賞賛の意が込められていた。
真っ直ぐな目が眩しくて、私は、彼女の顔を直視できない。
恥ずかしくて、ちょっと嬉しい。後頭部がくすぐったいような気分。

嵐のようにやって来た子供たちは、また嵐のように帰ってしまった。
静まり返った部屋を片付けていると、
ほっかむり女がやってきた。
「やはー。終わった終わった。どうよ。子供の相手も悪くなかろ?」
どう答えていいのか分からない私を眺めて彼女は続けた。

「他人に喜んでもらえる。幸せを感じてもらえる。
 何を作るでも、何を売るでも、自分がいて他者がいて
 初めて関係が生まれる。悲しみや不快感よりは
 喜びや快感に繋がる方が、自分も幸せだと思わない?
 どこに居たって、何してたっていいから、そんな風に
 生きられたら幸せだと思うよ。
 君は君の幸せの定義を決めればいい。」

幸せの定義なんて、自分の生き方も決められてないのに
そんな哲学的な事言われても困る。

「でもな、自分探しに時間かけても仕方ないで。
 いつだって、自分が自分に向き合ってるんだから。」

追い打ちをかける研がれたナイフのような切れ味の言葉を
酷いと思いながら、それでも
私は先ほどの少女の瞳を思い出していた。

植物園は、植物の世話をすればいいから実習先に選んだ。
こんなに人と関わるなんて夢にも思わなかった。
でも、ここを選んだのは悪くないかもしれない。

「人生、早めにコケた者勝ちよ。
さっさとコケて、さっさと立ちあがっとけば、なんとかなる」

良いのか悪いのか、やっぱり、さっぱり、分からない。

「或る日~インターン生の夏~ 2」関連カテゴリ

みんなのコメント(6)

こんばんは。

あれ?今回は短い。まだ編集の最中でしょうか?

単純な仕事が延々と続くって、意外に辛いんですよね。

うちの娘もよく言ってます。
「トイレをくるくる回るだけの、簡単なお仕事です。」
・・・ホントは(精神的に)きついのね。

返信する

くじら様
ギャー。
非公開にしたつもりが、がっつり晒しておりました。

肉体よりも精神を擦り減らす方が
ダメージが大きいですよね。
楽な仕事はないものですなぁ・・・・・・。

書き足しましたので、また読んで頂ければ幸いです。
短く纏めようと努力するのですが、難しいです。
コメント有難う御座いました。
スタッフ宮内 拝

返信する

こんばんは。

『非公開』で途中まで書いて、書き足して『公開』にする。私もたまにやります。しっかり確認しますけど ウッシッシ

コケたら、立ち上がればいい。う~ん、私もそんな日記を書いたばかりです。

返信する
  • 写真
  • 2012/08/11

こんばんは。

非公開のつもりで公開しちゃったんですか?それは焦りますね冷や汗

就職って難しいですよね~。それまで本気で考えることができなかったものをほんの数カ月で決断&実行しなくちゃいけなくて。
私は「何とかなるさ」と思っていたら何ともならなくて、本当に焦りました。結果的には捨てる神あれば拾う神ありで助けられましたが、それまで全く想像していなかったところに就職しましたしね。

コケたら、立ち上がればいい。
そうそう、転んでも自分で立ちあがる気力と、手を貸してくれる人があれば、また前に進めますよね。

大野更紗さんの「困ってるひと」、読んだことありますか?ラウンドアップ(除草剤)一気飲みを考えるほど厳しい状況(難病)に陥っても、「絶望は、しない」となんとか生き延びる術を探る難病女子の妄想日記で、おすすめです指でOK

押し花、私も子どもたちをアサガオの押し花に挑戦しました。今日新聞紙を交換するのを忘れてたのであわてて見てみたら、もうできてましたるんるん

明日子どもたちに見せるのが楽しみです。

返信する

農作業って根気のいる仕事が多いから、ある種、自分に向き合う感が強いですね。
企業的農業も増えてはいるけれど、農業は人生経験を積んだ人がするのに向いているのかもしれません。

返信する

こんこ様
ラウンドアップ一気飲み!
あわわわわわわ。駄目ぜったい!
「困ってるひと」読んでみます。

私も人生の節目節目を、本当に周囲に助けられた口なので、
今となってはスライディング土下座級の感謝です。
実習生も就活まっただ中だった子が、
久しぶりに顔を出してくれて「決まりました~」と
報告をくれると涙が出るほど嬉しいです。
うちの子に駄目な子なんて居ない。と
もはや半親バカ的な心持です。
出産も子育てもしてないのに。エア子育て?
妄想もいい加減なとこで、どうにかしたい・・・・・。

朝顔の押し花、押し過ぎると花弁が紙から離れにくくなるのでお気を付けて~。
コメント有難う御座いました。
スタッフ宮内 拝

あお@岐阜県様
自分に向き合うというのは、難しい事ですよね。
現実を直視するのは辛い。

自分自身は、延々と草抜きや盆栽の葉摘みで
鍛えられた気がします。
単純な作業を、きちんとやり遂げる事。
簡単そうに見えて、一番難しい。

実習生にも、限界の向こう側を見てもらいたいなと
思っています。
コメント有難う御座いました。
スタッフ宮内 拝

返信する
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