湯島臥牛さんの園芸日記
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湯島臥牛さん  東京都
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驚くべき岩石の利用 ⛰

2018/02/09
驚くべき岩石の利用 ⛰ 拡大 写真1 驚くべき岩石の利用 ⛰ 拡大 写真2

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サボテンを栽培している人は驚くであろう

石を何個か埋めて その隙間にサボテンを植えつけると異常なほど良く育つ

それもそのポジションが 窮屈であればあるほど生育が良いのだ

しかし いきなりこんなことを聞かされても読者諸君はたぶん半信半疑だろう
だがこれは 別に小生が急に気がフレた訳ではないので御安心のほどを

一般にサボテンは根の伸長が旺盛で 種類にもよるが 若い苗などは うかうかしておると 小さな鉢の中は新根でいっぱいになり根詰まりを起こして吸水すら覚束なくなる 
甚だしきは 底穴から地面にまで根を伸ばし鉢を動かせなくなる事もあるほどだ

であるからサボテンの植え替えは太い根を残して後は全部切り捨てて丸坊主にするという 他の草花ではおよそ考えられないような暴挙を敢行する

これは如何にサボテンの根が再生力が強いかを物語っている

そこで栽培者の心理としては 根が出来るだけ自由にのびのび伸びてゆかれるように余裕を持って用土を鉢の中に満たしてやりたい ということであろう

だが世の中はそう浅はかな人間の思惑どおりには行かない

その昔 宇部市の日本カクタス研究所々長で宇部常盤サボテンセンター所長でもあった伊藤芳夫氏は当センターにて長年多数のサボテンの栽培管理を委託されておられたが ある時 奇妙なことに気付いた

巨大な温室内の後方に岩石を配したロックガーデンの中で 岩と岩の間の狭いスペースに植えられたサボテンの方が 中央のたっぷり広い場所に植えられたものより場合によっては3倍も成長が早いのである

普通に素人が考えるに 用土が豊富にあり土中の水分・養分を十分に吸収できるポジションに植え込まれたものの方が成長が良いはず と想像する

だが実際の現象はこの逆さまなのである  
それも その生育には3倍もの差が生じるのだ

この事実は 一体どのように理解すべきなのか

伊藤氏はその著書の中で 石と培養土の隙間に流れ込む水とその後に入り込む空気を呼吸する根の健全な生育を理由として挙げておられる
(その根の呼吸の機序については 記事「根腐れのメカニズム/ウェントの霧箱」をぜひ参照されたし)

氏の結論はこのウェントの実験からも裏付けられると思われる

昔NHKのドキュメンタリー番組でアフリカの荒れた大地で生活する農民の姿を放映していた

その耕地は無数のゴロタ石の混じった痩せた地味の畑で 日中は摂氏50度明け方には氷点下近くまで冷え込む苛酷な環境の中にある

日本人ならば耕し易いようにまず岩や砂礫を取り除くことからはじめるだろう
しかし此処の農民は石はそのままにし かえってその石の隙間に苗を植え込んで育てていた
農民が言うには その方が作物の生育が良いのだそうだ

番組ではその理由として 石は日の出と共に日光に照らされ土よりも急速に温度が高まり その表面にへばり付いた植物の根の活動を活発にするのだ と解説していた

読者の中にも子供の頃 野原の石をひっくり返して その下の地面を見てみた経験のある人もいるのではないだろうか

そこには 岩石の型に沿うようにびっしりと雑草の根が網目状に伸びていたのを見た記憶がお有りであろう

このときアナタは疑問には思われなかっただろうか
なぜ雑草の根は自由に伸長できる土の方に行かずこんな窮屈な場所に根を張るのかと

小生はこの理由として 根の呼吸とともに石の急激な温度変化が作用していると推察する

石は夜明けの日射でその表面を炙られ 土に比べ熱伝導が良いので地中の部分の温度を高め それに絡んだ植物の根を急速に温める

そして やがて日没とともに速やかに温度を下げむせ返った根を急激に冷やす
この寒暖の差が根の発育を促進するのではないだろうか

多肉植物栽培経験の長い読者は先刻ご承知だろうが 大半の植物は気温の日中差の大きい季節によく育つ傾向がある

これは何も多肉植物に限ったことではない
特に根は 光合成を行う時はすみやかに温められた方が都合がよい

冷涼期に黒い上薬のかかった楽鉢を使用すると成績が良いのはこの為である
(もっとも 楽焼の優秀性は鉢内部が吸水性のある素焼きであることも大きいが)

そして 夜間はある程度冷え込んで根を休眠させるのがどんな植物にとっても良いと思われる

そこで小生は このサボテンの根の伸長を促す岩石の作用を他の多肉植物に応用できないものかと考えたのである


            ▽ 

 

岩石の効用については概略お分かりいただけたのではないかと思う
そして それを小生がどのように応用しておるかお見せしよう

上の写真は去年実生して育った苗 2年生
実生2年目にしては成長が異様に早いのをお気付きだろうか

画像が良くないのでわかりにくいだろうが体部分に徒長はないと自負している
刺(とげ)も幼苗にもかかわらず一般のものよりかなり長いのが見てとれる

ちなみ小生 刺物(とげもの)のサボテンは特別の栽培法を採用しておる 
これについては「玉利式栽培法」というやり方があるのだが いずれ項を改めて後述したい
ここでは 読者諸君には鉢の用土に注目してもらいたい

粗い粒子は「さび砂利」と呼ばれる小さ目の砂利である(砂としてはかなり大粒)
鉄錆び色の混じった乳白色の花崗岩の風化したものでかなり重量がある

これは園芸店で買ったのではなく建材店で20㌔袋八百円ほどで購入したものである
大小篩(ふるい)に掛けてその中で中粒を用いた

園芸用に使用されることはなく住宅の通路に敷かれる砂利として売られている

主に伊勢地方で産出するものが多いが関東北部でも少数採掘されるようだ
他の園芸砂に比べ安価だが 大量使用する建材用砂利としてはかなり高級品なのだそうだ
読者の中にもどこかの豪邸の玄関周囲に撒かれておるのを見た方がおられるかも知れぬ

岩石を鉢に埋めてその隙間に苗を埋め込むことが 根の成長をより促すと述べた

しかしこの栽培法の欠点は只でさえ狭い鉢内でその容積を岩石がかなり占めるという事だ
根の伸長の旺盛なサボテンの若苗などはアッという間に鉢内に根が充満し次の植え替えをやたら急かされることになる
植え替えとなれば折角伸びた細根は切り取られることになりあと暫くは生長が中断される

いかにサボテンの小苗といえども春秋の適期以外の植え替えは極力避けたいもの

そこで小生の工夫だが 岩石の効用を残しつつ表面積や隙間を増加する方法を考え付いた

それは このような粗い石のチップを使用することである

「な~んだ それしきの事か くだらぬ」と思わないでいただきたい

岩石をひとつないし数個配置して効果があるならその小型を数百個用いれば当然石の表面積は倍加し 根は石から多面的に影響を受けてその効果はいやが上にも増大せざるを得ない

そう これは「コロンブスの卵」  
云われてみれば至極単純なことではある

しかし小生に云わせれば 常日頃ブログで初心者の質問に回答しておる大先生がこれしきの工夫も思い付かず 解説書の受け売りばかりをしているのも笑止なことである

それと この「花崗岩の破片」というところが味噌で 砂岩や片岩に比べ熱伝導率が大きく岩面にしがみ付いた根に温度差の刺戟を与えやすい

酷暑の時期 根の周囲温度が上がり過ぎる場合は蘭栽培のテクニックを応用しミズゴケのマルチングを施す手もある

本当に多肉栽培が好きになればこれしきのアイディアなど次から次へと湧いてくるもの
初めは誰しも多肉植物が好きでこの世界に入ってくるものだが やがて日々の世話に飽きて何か植物に事故でもあったのを契機に いい加減な管理になって最後は放置・衰弱死である
これが我が子や家族であれば「保護責任者遺棄致死」という立派な犯罪であろう

このような気分に陥っておる読者は 最初かわいい多肉に出会った頃をぜひ思い出してほしい

冒頭の記事の伊藤芳夫氏の発見のとおり植物の根は新鮮な空気を常に要求する
粗く角張った花崗岩のチップは一個の石よりもその表面積を飛躍的に増やし水捌けも速やかでその微細な割れ目にある程度の水分を保持する

保水が不充分と思われる場合は腐葉土 バーク堆肥 赤玉土小粒等を混入すれば解決する
粗めの「さび砂利」は 岩石の特徴を保持しつつ川砂の長所を発揮して根の伸長を助ける

また比較的安価であるから大量の使用にも経済的負担が少ない

まことに手前味噌であるがこれは画期的な使用法ではないかと小生ひとり自画自賛している

具体的な植え込み方は2枚目の写真

苗の根の周囲は 新根の発生を喚起するため小粒の赤玉土で取り巻く
ある程度伸びた根は新鮮な空気を求めてその外側の砂利の層にもぐり込んでゆく

砂利領域は粒子の孔隙が大きいので灌水のたびにその空気が急激に更新されている

進入して来た新しい根はこの充分な酸素をこよなく呼吸できるという寸法である

植え込み時のコツは土と砂利の間の紙を引き抜くとき鉢をコツコツ叩いて揺すること

このとき短気を起こして無理矢理引っこ抜くと層がグチャグチャに乱れる

植え替えの最後はその後数ヶ月の苗の生長を左右するのでくれぐれも慎重に行いたい


なお「用土層の土質が途中で変わると根が進出してゆかない」という説があるが それは明らかな間違いで 現にこの鉢では内壁まで根が伸びて少し掘れば鉢際の表層に根がのぞく

ちなみに写真の鉢土の調合割合いは

さび砂利 ...6
赤玉(小粒)..1(根の周囲のみ)
腐葉土  ...2(乾燥を防ぐため上部層に混ぜる)
籾殻燻炭 ...1
マグアンプK ..微量(燐酸肥料分 移動しにくいので元肥として)

窒素 加里は水に溶けて鉢内を容易に移動するので表土に少量置き肥をする
籾殻燻炭は ごく弱いアルカリ性をもたらすが大勢に影響はない 

なお鉢底のガラは省略している さび砂利自体がその任を果たしているからである



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みんなのコメント(8)

はじめまして

ハオルシアの栽培方法にもヤシの実チップを
使うというのを見ましたが、それと同じような理由でしょうか?
植え替えも少なくて済むとなっていました。
難しいことは、 わかりませんが、サボテン達が、元気に育ってくれれば、喜びこの上なしですね。

返信する

いらっしゃい、何度かいいねをいただきましてありがとうございます。

ヤシの実チップは最近普及して来たハオルチアの培養素材。
日本ハオルシア協会の林 雅彦著『多肉植物 ハオルシア』じゃヤシの実チップ 商品名「ベラボン」で植え付けるのを推奨してます。

しかし、この日記の「岩石の効用」はヤシの実チップのそれとは違います。

たしかに通気性の良さは岩石の隙間にもあり、その点じゃヤシの実チップと共通してますが、話の中にもあるように土との熱伝導率の違いが根の伸長に寄与してるというのが我が推測です。

ヤシの実チップについては現在研究中で近々日記に投稿する予定です。

最近じゃタイ産のコーデックスの用土に使用されてるそうですね。
非常に根張りが良く、劣化しにくいので植え替えが5年に一度で良いそうで。

こんばんは

ちょくちょく訪問するオークションサイトの一画像を見て何日か前に読んだ臥牛さんのこの日記を思い出しました。

http://www.togo1.com/
(ページは更新されるので意図せぬ画像になってるかもしれません)

用土が多いと鉢が温まりにくい、また状態によってはいつまでも湿り気が抜けないという問題があると覚えたつもりでしたが、その作用は自分が想像してたより凄いのかもしれません。

返信する

昔の一部の専門書じゃパキポディウム属を「岩性植物」と表現してました。🏔
この写真を見るとまさにその表現がピッタリですな。

「根性ダイコン」のようにセメント・アスファルトの隙間に根を張り立派に成長してるのを見るにつけ用土の量と肥料質の多寡がどれほど植物の成長に寄与してるか分からなくなる時があります。😒

多分に、現実と我々の「常識」の間にゃ大きなギャップが存在するのでしょう。
植物の専門家の手に成る「理論」なるものも、真理の前には「群盲 象を撫でる」の類かも知れませぬ。🐘

お早うございます。

お師匠様、私は、ロックガーデンらしき物を作っていた訳ですね。無知、無謀がたまたま良い結果を生んだ!

白星ちゃん子供の生育環境を整えます。

返信する

おはようございます。

植物園はよくドーム状に巨大温室を構えてます。
でも、通風を考えるとそちらさんの方がよろしいのかも。

ん? 白星じゃなくて「金星」じゃないかしら。

白星ちゃんは、今、別の場所にいます。
譲って下さった方が、「地植えをしない方が良い」とおっしゃったので。

でも、地植えしようかな?
トゲが違うだけで、基本は同じですよね?

返信する


同じマミラリア属ですが、「白星」「白翁」「満月」「白蛇丸」などの白トゲと白毛をまとうグループを『白系マミラリア』と称します。

白トゲ・白毛は高地の強烈な日照紫外線から表皮を守る役目をしてます。

ゆえに『白系マミラリア』は一般的なマミラリアより遮光を減らす必要があります。徒長をしないためです。


ほかに、マミラリア属は高地原産ゆえ日本の蒸し暑い夏は苦手で、とくに群生株は蒸れに弱く、用土を過湿にして通風を怠ると根腐れを起します。

「地植えをしない方が良い」とおっしゃったのは、路地植えだと長雨で土の過湿が続く炎天から移動できないからだと。

屋根が有って豪雨で水が溜まらない場所なら遮光をうまく施せばイケるでしょ。

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