● 従来の「増やし方」は…
従来から言われている「胡蝶蘭の増やし方」は、高芽か脇芽を子株として育てる方法です。つまり「勝手に増えるのを待つこと」を「増やし方」と称していたのです。しかも、その高芽や脇芽なんて、品種にもよりますが、大抵はたま~~~にしか出ません。同じ株を数十年栽培し続けても一度も出ないことも。
● もっと確実な方法ないの?と始めた試行錯誤
そこで、増やしたい時に増やしたいだけ増やせる方法を考えました。
植え替えの時に「切株」を採り、そこから芽吹かせるのです。ここで言う「切株」とは、株の下部にある古い部分を切り出した物のことです。
それはデンドロやカトレアなどで言うところのバックバルブに相当する部分です。でも、胡蝶蘭の切株には、体力を蓄えたバルブがありません。そのため、切株を植付けて育てようとしても、芽が出る前に力尽きてしまうことが多かったのです。
● 決め手は「すっぽんぽんのじめじめ」
切り出したばかりの切株には、成長中の芽が付いていません。その上、根も古いものしか付いていません。そんな状態だから、非常に根腐れし易いのです。
そこで、植込材を使わず、すっぽんぽん栽培にしてみました。
その結果、成功例も出始めた一方で、干からびて枯れてしまうこともあり、当たり外れがありました。
ファレノプシスはバンダほど乾燥に強くないので、すっぽんぽん栽培にはより高い湿度が必要なのではないかと考えました。
そこで、切株を入れた植木鉢に透明な容器でフタをして、保湿してみました。すると、かなりボロい切株からでも発芽させることができたのです。
こうして「すっぽんぽんにして保湿する」ことで、成功率(発芽率)がかなり向上しました。
ただし、無闇にジメジメにし過ぎるとカビが生えて腐ってしまいます。なので、水やり後は水滴が粗方乾いてからフタをしたり、鉢内の結露が多過ぎる時にはしばらくフタを外したりと、柔軟に対応します。
逆に乾き過ぎてしまった(けど本格的な水やりをする時間がない)時には、とりあえず霧吹きで軽く湿らせてフタをしておきます。
フタをした時に鉢内にうっすら結露が生じる程度に湿り具合を調節します。
● 発芽後の管理
すっぽんぽん栽培のままでの育苗は難しいので、子株が発芽したら植込材を用いて植付けます。
植え方については各々の流儀でいいと思いますが、幼苗のうちはバークや軽石系よりもミズゴケの方が馴染み易いでしょう。
胡蝶蘭のように乾き気味に育てる着生蘭では、ミズゴケを固く詰め込むことで水を含み過ぎないようにするのが一般的です。が、幼苗でそれをやると根がちぎれてしまいます。なので、少なくとも株元の数センチは、あまり固く詰めない方がいいでしょう。
私はプラ鉢に軽石(日向土中粒など)を入れてその上にミズゴケを盛る方法を採用しています。これならミズゴケの余計な水分が軽石に吸われてはけるので、ミズゴケをふんわりと盛っていても、水やり後のべちゃべちゃ状態が短時間で解消します。
親株由来の根が枯れたら子株を切り離します。
植付後の管理は親株とほぼ同じでOKですが、ストレスをかけないように気を付けましょう。
● 切株に成長点は必ずあるの?
葉腋(葉の付根)の成長点が花芽になるとその成長点は消費されてしまうから、葉腋成長点が全部花芽になる程花付きの良い個体では、切株に成長点が残ってないんじゃいの? …という疑問もあるかもしれませんが、心配無用です。
ファレノプシスは花茎を出す時に花茎の基部に節を作っているようで、枯れた花茎の付根からでも芽が出ます。そのため、葉腋成長点が全部花芽になる性質の株でも、切株からの芽吹きは可能です。
目安としては、切株に生きている根が4~5本もついていれば発芽は可能です。
なるべく若い根が多く切株についていた方が、切株から芽吹かせるのにはもちろん有利です。でも親株の方を弱らせてしまっては元も子もありませんから、当然、親株を作落ちさせないことを優先に考えて切株を取ります。
● どの位のペースで増やせるの?
葉が3~4枚更新する毎に1回、元気な親株なら1~2年に1回切株を採取できますが、株への負担を考えると最大でも隔年とした方がよいでしょう。
1つの切株から1~4株の子株が発芽します。
切株から子株が発芽するのには1~3か月程度、子株が開花株まで育つのには3~5年程度を要します。
● 2021年6月時点で考え得る最良の方法で最初からやり直したナゴランのそだレポもご参照ください。
https://www.shuminoengei.jp/?m=pc&a=page_r_detail&target_report_id=20619
従来、高芽か脇芽の発生という「幸運な偶然を待つこと」が「増やし方」のように言われてきたファレノプシス(胡蝶蘭)ですが、ここで紹介する方法なら、もっと確実に増やせ(ると思い)ます(、たぶん)。ここで活用するのは、デンドロやカトレアなどで言うところのバックバルブに相当する部分です。つまり、植替の時に出る「捨ててもいい部分」から増やせるのです。
ナゴラン Phal. japonica で確立した方法がファレノプシス属の他種でも通用することを実証し(たいと思い)ます。
子株が芽吹いて成長軌道に乗れば、それで成功とします。(開花まで育てる用の場所がないので、子株はたぶん適当なとこでお嫁に出します。)