日本独自の美の感覚が育んだ「変わり葉ゼラニウム」
その昔、愛好家の視線を一身に浴び、その後、歴史の表舞台から姿を消した植物があります。
名前は変わり葉ゼラニウム。花もさることながら、葉に出た赤や黄、白、黒などの模様や、モミジのような切れ込みをもつ葉など、葉の色や形の絶妙を観賞することから、錦葉(にしきば)ゼラニウム、斑入りゼラニウム、あるいは葉変葵(ようへんあおい)とも呼ばれました。
南アフリカに由来するゼラニウムは、18世紀、ヨーロッパに渡り、主に豊富な赤や白、ピンク色の花を楽しむガーデン植物として改良されました。日本には幕末に渡来、やがて葉の面白さを観賞する一群が、変わり葉ゼラニウムとして愛好されたのです。
その変わり葉ゼラニウムの消息を、「趣味の園芸」講師、広島市植物公園の島田有紀子さんから思いがけず耳にしました。広島市植物公園にコレクションがあるというのです。
「欧米で庭園用に育種されたゼラニウムを、日本人は葉の変化に着目してさらに改良し、たとえば冬に紅葉する『光山錦』を生み出しました。そこには四季の移ろいの中で暮らす日本人の感性を感じます。植物を身近に置き、床の間飾りのように愛でる、日本のわびさび心にも通じる美の感覚が、変わり葉ゼラニウムを育んだのです」(島田有紀子さん)
わびさびの心が変わり葉ゼラニウムに連なっているという島田さん。そして――。
「最初のブームは明治末、大人気の『太陽錦』は枝1本100円~850円もの高値だったそうです(当時、米10キロ87銭という)。昭和初期のブームでは、大人気の『千代田錦』は枝1本1,350円という驚異的な高値でした(当時、米10㎏2円7銭という)。しかし戦後、花を観賞するゼラニウムが主流になるや、変わり葉ゼラニウム熱は冷め、姿を消してしまいました」(島田有紀子さん)
栽培しにくく消失の危機にある変わり葉ゼラニウム。島田さんは変わり葉ゼラニウムの中にある美の遺伝子を、将来の園芸に受け渡したいと語ります。
変わり葉ゼラニウムを含めたコレクション300品種400鉢の展示が、4月20日まで広島市植物公園で行われています。
取材協力:広島市植物公園
広島市植物公園「ゼラニウム展」
期間/3月12日(土)~4月20日(水)
内容/多彩な花色と葉の模様や色が美しいゼラニウムや、豪華なぺラルゴニウム等を展示します。
(元『趣味の園芸』編集長 原田)
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【園芸LOVE 原田が行く】は、「みんなの趣味の園芸」スタッフであり『趣味の園芸』テキスト元編集長の原田による園芸エッセイです。