育種を手がけて60年。小森谷 慧さんに球根植物について聞いてみた!<前編>『趣味の園芸』10月号こぼれ話
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」の第4回。『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、おもしろそうなことや役立ちそうなことなどを載せていきます。
今回は、『趣味の園芸』10月号で「球根図鑑 2017」の監修を務めた小森谷 慧さんに、球根植物にまつわるあれこれを伺います。
編集部(以下、編):10月号では、チューリップなど定番の球根植物の最新品種や、注目の巨大球根を紹介していただきました。球根植物とひとくちに言っても、実に多くの種類や品種がありますね。
小森谷 慧(以下、小):育種して次々と新しい交配種が誕生しているのはもちろんですが、近年でも、今まで知られていなかった原種というものが、どんどん発見されています。
おそらくは、移動手段の発達によって、今まで足を踏み入れられなかったエリアにも速く行けるようになったことで、発見のスピードも上がっているのではないかと思います。
編:なるほど。小森谷さん自身も、数千の原種を集められていますね。
小:今は、海外とのやり取りはメールが中心ですが、昔は世界中飛び回って、珍しい原種を仕入れていました。私の主な仕事は育種ですが、新しい交配種をつくるときはまず、原種を集めることからはじめます。
たとえば、スイセンを育種しよう、と思ったらまずは原産地からあらゆるスイセンの原種を集めます。そうして集まった原種を、別の原種やすでにある園芸品種にかけあわせて、一つ一つ、どんな花が咲くか、どんな性質が出るか、試していくのです。
編: 途方もない作業ですね......。小森谷さんのナーセリーでは、毎年、どれくらいの品種を生み出しているのでしょう。
小: どれくらいっていうのは、正確にはわからないですね。例えば、アマリリスならば、今は500パターンくらいのかけ合わせを培養中です。
もちろん、そのすべてが新品種として世に出るわけではありません。咲いた花を見て、名前をつける(=新品種として売り出す)価値があるかどうかを判断します。
数あるなかから選ばれた新品種は、繁殖して増やし、市場に流通させていくという流れです。
編:育種のしやすい種類、というものはあるのでしょうか。
小:球根植物や宿根草は、一年草と違って、タネからではなく無性繁殖が出来ます。はじめはどれも1株なので、栄養繁殖で増やしていくことができます。その点では、整理がし易いと言えますね。
編:これまで数百、数千の新種を手がけられてきたと思いますが、思い入れのある品種などありますか。
小:アマリリスというのは、元々園芸品種に黄色が無かったのですが、ほんのり黄色の原種が有ったので、それを重ねて重ねて......黄色の安定した品種をつくりました。こちらはこれからお披露目する予定です。
小森谷さんが育種されたアマリリス'ゴールデン シティ'
編:美しいですね。赤い一般的なアマリリスとはずいぶん印象が違います。
ところで、小森谷さんが初めて育種されたのは、高校生のときだったとか。
小:高校2年のときに初めて、当時世界の球根ベストセラーであったグラジオラスの交配をしました。20歳のとき、グラジオラス展示会に出品してみたら、1等、2等、3等と表彰台を独占してしまって(笑)それから本格的に、交配育種を手がけるようになりました。
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