育種を手がけて60年。小森谷 慧さんに球根植物について聞いてみた!<後編>『趣味の園芸』10月号こぼれ話
前編では、小森谷さんが長く携わられている育種について伺いました。後編では引き続き、普段のお仕事や今昔の園芸事情についてお話しいただきます。
編集部(以下、編):長く園芸界の第一人者として活躍されていますが、昔と今とでは、植物のトレンドも変わってきたのでしょうか。
小森谷 慧(以下、小):球根でもなんでも、昔は花のキレイさだけが見られていました。でも、花というのは、もって10日間くらいですよね。花もキレイ、葉もキレイ、という種類の人気が徐々に高まっていって、最近では、花はともかく、葉姿がユニークで更に休眠中の球根も魅力的、というものに人気が出るようになりました。
編:テキスト10月号で紹介した、巨大球根などは、花がない時期でも観賞価値の高い種類ですよね。
小:また、栽培情報など、園芸に関する情報の仕入れ方も、昔と今とでは変わりましたね。昔、私がはじめた頃、吉村幸三郎さんという球根の生き字引とも言われた育種家の方がいらっしゃいました。栽培や育種法でわからないことなど、何百通もその方に手紙を送って質問をしていました。吉村さんはその都度返事をくれて、本当にいろいろなことを教えていただきました。
編:小森谷さんにとっての師匠、なんですね。
小:そうですね。ところが今はインターネットがあるので、調べればすぐに知りたいことが分かりますよね。海外のサイトなんかも見てみたら、もっと多くの情報が得られます。すごく便利になったと思いますが、やる前に画像などで植物の姿、栽培法が見えてしまうのは少し残念な気もします。
栽培でも育種でも、やはり自分の手であれこれ試してみるのがよいと思いますよ。アドバイスはもちろん参考になりますが、人によって環境の違いなどもありますし、一概には言えないので。
編:習うより慣れろ、ということですね。買い手にも、変化がありましたか。
小:やはり、インターネットのおかげで、海外からの注文がすごく増えました。日本とは全く異なる気候の国に住んでいる方からの注文もあるので、注文した方の住んでいる地域の気候に合わせて、簡単な栽培アドバイスのメモをつけるようにしています。
編:それはありがたいですね。手がけた品種が世界中で花を咲かせているというのは、わくわくすることと思います。
小:花好き、植物好きというのは世界中、どこにでもいるんだな、というのを強く実感します。
編:ところで、本当にたくさんの種類の育種、生産をされていますが、とりわけこれに重きを置いている、というものはあるのでしょうか。
小:それが、ないんです(笑)以前は花木が中心でしたし、球根の育種で知られていることも多いけれど、今、畑では宿根草のスペース方が多いくらい。時代の流れとともに扱う種類も変わってきたので、何が専門ですか、という質問が一番困ってしまいます(苦笑)
編:ハウスのなかでも、球根植物、宿根草から多肉植物まで、実に多様な植物を拝見しました。
小:手がけた品種がある程度普及してきたな、と思ったら一部のお気に入りを残して、やめてしまうのです(笑)常に新しいものを探しにいってしまう。そうして、今度はこれをやろう、と思ったらとことん、世界中から入手可能な原種、品種を集めるんです。その繰り返しですね。
編:あふれる情熱とバイタリティに感動いたしました。今年もたくさんの新品種がお披露目されるとのこと、楽しみです!
<完>
次回は、11月号「果樹」特集に関連して、10月下旬に更新予定です。お楽しみに!
--------------------------------------------------------------
『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開します。(毎月2回更新予定)