あなたの知らない育種の世界!?松村みよ子さんにクリスマスローズについて聞いてみた!〈前編〉『趣味の園芸』1月号こぼれ話
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」の第7回。『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、おもしろそうなことや役立ちそうなことなどを載せていきます。
今回は、『趣味の園芸』1月号「2018クリスマスローズ~つくり手の思いのこもった花を集めて」に登場した松村園芸の松村みよ子さんに、クリスマスローズの新品種づくりの舞台裏を伺いました。
クリスマスローズの育種家で知られる松村みよ子さん。松村さんが"楽しくてしかたがない"という育種の世界を、紹介してくれました。
松村みよ子 Profile
1980年東京生まれ。クリスマスローズの育種で有名な松村園芸の三女として生まれる。一般企業で営業職として働いたあと、就農しクリスマスローズの世界へ。育種を始めて10年、独特の色合いが美しいカラーリーフのシリーズを発表。
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今日は私、松村みよ子がクリスマスローズの奥深い世界をご案内します。
まずこちらをご覧いただけますでしょうか
クリスマスローズのカラーリーフ、Kiva。今年から売り出す新品種です。
撮影:松村みよ子
これだけ明るい黄色の葉っぱは、クリスマスローズのなかではすごくめずらしいんです。これ、育種するのに5年かかりました。
育種というのは、親株と親株をかけあわせて子株をつくり、それを繰り返すことで、思いどおりの株にしていくことです。形や大きさ、色だけではなく、株姿が美しい、病気にかかりにくいなど、さまざまな観点でよりよいものを目指しています。今までは花の形や大きさでいろいろなバリエーションが生み出されてきましたが、私は葉っぱ(カラーリーフ)に注目し、育種を続けてきました。
たとえばこういうふうになります。
リヴィダス、ステルニーは、クリスマスローズの種類です。
リヴィダスの黄色い変異種(①)とステルニー(②)をかけあわせたら、葉脈がきれいに入ったギザギザのシルバーリーフが出てきました(③)。
さらにそこからタネをとって、くり返しふやしたところ、黄色くてギザギザの葉っぱが出てきました(④)。
黄色いきれいな葉と、親株の名前(Viva)から連想して、Kivaという名前にしました。
このように特徴的な株同士をかけあわせることで、思い通りの姿に近づけていきます。
また、ほかにはこんなものも。
散らばったような斑(散り斑)が入った緑色の株【A】と、はけ込み斑が入った赤系の色素を持つ株【B】をかけあわせたところ、いったん緑色の味気ない葉になりました【C】。
そこから、生育のよいものを選んでタネを取り、選抜を繰り返したところ、きれいなピンク色の斑入りができました【D】。斑が繊細でキラキラして見えるので、ダイヤモンドダストと名付けています。
親の雌しべに花粉をつけてタネができ、それが育ったものが子株なわけですけど、その子株にもまたタネができるわけです。
1株から数百のタネができるのでそのタネをまいて、芽が出て、それがまた成長してひとつの株になります。
そうしてできたたくさんの孫株から、よい兆候が出ているものを選抜し、さらに増やしていきます。
これが育種の基本的なプロセスです。
クリスマスローズの育種は、すごく時間がかかるんですよ。
親株を交配するのが12~4月頃。5~6月頃にタネができたのを保存しておいて、それをまくのが8月。さらに、発芽するのは11~3月。この間、約1年かかっています。それでもカラーリーフの育種は1年で結果がわかるので、早い方です。花(正確には萼片)が見られるのはさらに半年~1年以上後なので、花姿の美しさを目指す場合にはもっと時間がかかることになります。
これが今年の8月下旬にタネをまいて、約3か月後の発芽苗です。
ちょっと葉っぱがギザギザしていますよね。
こういう、つくりたいものの兆候が表れているものが、ときどき出てきます。
そういうものを残して、大きくして、成長した姿を見るんですけど、そこではだいたい狙いどおりのものは出ないことが多いです。
そこからたいてい2回同じことを繰り返すので、ひとつを育種するのにかかる期間は3年半くらいが平均です。
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