ギリシャで乾燥に耐えて生きる植物の生態は?久山敦さんに山野草について聞いてみた!<前編>趣味の園芸3月号こぼれ話
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」の第9回。『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、おもしろそうなことや役立ちそうなことなどを載せていきます。
今回は、『趣味の園芸』3月号で「スミレの魅力再発見!」「春を呼び込むサクラソウ」の講師を務めた久山敦さんに、スミレの仲間も自生するギリシャの植物の魅力について伺います。
編集部(以下、編):久山さんは、大阪市の植物園「咲くやこの花館」の館長を務める傍ら、世界各地の植物の自生地を訪ねてらっしゃるんですね。
久山敦(以下、久):はい。主に山野草や高山植物の自生地を訪ねており、今まで51か国に行きました。
サウスレア・メドゥサと久山さん。中国・雲南省白馬雪山4600m。2005年6月
編:51か国ですか! すごい数です。
久: なるべく点ではなく、少なくとも線として自生地を観察したいので、長い旅ではイギリスのロンドンからインドのコルカタまで18か国24000kmを170日間、ヨーロッパ23か国18000kmを60日間で回ったこともありますよ。
トリリウム・グランディフロラ(エンレイソウの仲間)を撮影する久山さん。アメリカ・ノースカロライナ州。2004年5月
編:そんなに長い時間をかけて回れるなんて、本当に羨ましい!
久:クレタ島には2001年の4月に行きました。地中海式気候なので、主に冬から早春に雨が降りますが年間の降水量が少ないところで200mm程度と、日本に比べ極端に少ないんです。
編: そんな環境に対応するために、35ページで紹介しているスミレも木質化した訳ですね。
久:そうです。ビオラ・スコルピウロイデスやビオラ・デルフィナンタは木質化することで、根を地中深くまで張って、乾燥に耐えています。
ビオラ・スコルピウロイデス
編:そんな厳しい環境ですが、ほかにどんな植物が生えているのでしょう。
久:クレタ島特産の白い花を着けるシクラメン・クレティクムやピンクの花が可愛らしいツリパ・サクサティリスが自生しています。これらは球根を地中25~30cm深くまで潜らせることで、乾燥や高温に耐えているんですよ。
シクラメン・クレティウム
ツリパ・サクサティリス
編:そんなに深いところに球根があるとは驚きです! ツリパとは、チューリップのことですよね?
久:はい。ツリパ・サクサティリスはチューリップの原種です。日本では葯(やく)がオレンジイエローの変種が'ライラックワンダー'の品種名で流通しています。
編:日本で変種が入手できるんですね。でも日本で育てるとなると、難しそうですね。クレタ島とは環境が全然違いますし......。
久:そうですね。クレタ島の環境と、日本の環境の違いを理解した上で、温湿度、用土などを調整しなければなりませんね。
編:自生地に行かれるのは、現地の環境を知りたいからということなのでしょうか。
久:もちろんそれもありますが、憧れの植物の故郷を巡礼したいといった気持ちでしょうか。
編:巡礼ですか。故郷から遠く離れた日本で生きる植物への敬意が感じられる言葉ですね。
久:はい。自生地で植物が生育する姿、地中の様子、自生地の気候、土質、そして地域の人との関わりなどエコロジー(生態学)からエスノボタニー(民俗植物学)まで、トータルで憧れの植物を理解したい気持ちがあります。
編:なるほどー。自生地の環境だけでなく、現地の生き物との関わりまで知ると、今までとは全然違った目で植物が見られますね。
★久山 敦(くやま・あつし)
園芸研究家/1947年、兵庫県生まれ。学生時代より植物に親しみ、英国王立キュー植物園に留学。兵庫県立淡路ファームパークの大温室やロックガーデンなどの設計を手がけたのち、2007年より大阪市の植物園「咲くやこの花館」の館長を務める。『四季の山野草栽培』(NHK出版)など著書多数。
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