球根は"地中の宝石"!? 若松康史さんに球根植物について聞いてみた!<後編>趣味の園芸4月号こぼれ話
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める「テキストこぼれ話」、連載10回目。前編では、球根植物に魅せられたきっかけや、その理由について聞きました。
編集部(以下、編):前回、幼少期の体験について伺いましたが、その後はいかがでしたか。
若松康史(以下、若):中学生になると、いよいよ自分の足で植物園に出かけたり、カタログを見たりして、気に入った品種、特にチューリップの園芸品種を多く集めるようになりました。
といっても当時庭はなく、ベランダ(というより物干し台)にプランターを並べて、栽培していました。当時住んでいた京都は、冬は雨量が少なく、球根が太り始める花後になれば高温多湿になるという、チューリップにとっては良くない環境なのですが、ウイルス病も発生することなく、きれいに開花する球根がどんどん増えていきました。
編:それはすごいですね。どれくらいの数栽培されていたのですか。
若:幅65cmのプランターで30個分くらいです。それでも足りなくなり、1品種当たりの球根の数を制限せねばならなくなってきました。しかし、増えすぎたものを捨てるにも忍びなく、悩んでいたある日、買った園芸書の中に「不要な球根は『きんとん』にして食べるしかない」といったようなことが書いてあったのです。
球根の外皮をむいて鍋に入れ、砂糖を入れて火にかけるだけのもの。できあがったものを食したところ、最初はなんとなくユリ根に似ているかなと思いましたが、やはり青臭いという感じで、結局はほとんど捨ててしまいました。今は観賞植物の食用に関して制限が厳しいので、食べてはいけません。それにやはり、おいしくないです。
編:今ではなかなかできない経験ですね。球根の楽しみ方でおすすめは何ですか。
若:それはなんといっても、水耕栽培ですね。私自身、子供の頃に水耕栽培で球根に魅せられたのが原体験。根の出る様子も美しかったなあ・・・(遠い目)。
根の出る様子も美しい水耕栽培。
ガラス製の容器を用いて、球根、花、根という「植物全体」を眺めることができ、球根植物の美しさを存分に楽しむことができます。
それと、クロッカスでは黄花種はまっすぐに根が伸びますが、白花や紫花種はチリチリになって根が伸びる姿がなんともユーモラスです。
イラスト:編集部
編:花色によって根の伸び方が違うなんて、知りませんでした。球根の根にも着目すると、楽しみが広がりますね。
若松:そのとおりです。私のように球根自体が好きな人間はごくわずかだと思いますが、この楽しみ方をみなさんにも知ってもらいたいなとは思っています。
種子とは違い、何年もその状態で生きることができないものが多いので、球根のまま長い期間眺めることはできないのが残念なところです。
編:そうなんですね。ところで、若松さんはクラシック音楽もお好きなんですよね。
若:はい。ただし「バッハのみ」です。「バッハ以外も聴いた方がよいのでは?」と言われることも多かったのですが、現在もかたくなに拒否しています。バッハの楽曲は非常に多いですし、幼少の頃に美しい音楽と感じていたのはほとんど全てバッハの曲です。肌に合っているのだと思います。
編:球根だけでなく、バッハ愛好家でもあるのですね。音楽と植物に、なにか共通項はあるでしょうか。
若:私にとって植物は目に見えるもの(視覚が主で、触覚が少し、嗅覚はさらに少し)、音楽は目に見えないもの(聴覚)です。正直、共通するものが見当たりません。あるとすれば「美しい」という漠然としたものだけでしょうか?
ただ、音楽を奏でる楽器の色艶や、直線と曲線の融合の美しさは植物に共通するものでしょう。また、フーガのような絡み合った旋律を書いた楽譜は植物のつるのようで、幾何学的な美しさを感じます。すみません、ついつい語りすぎてしまいました。
編:いつかそのあたりのお話もじっくり伺ってみたいです。最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
若:『趣味の園芸』4月号「あなたは知っている? 球根のひみつ大解剖」では、球根そのものの性質からスタートして、では栽培はどのようにすればよいのか? ということを分かりやすくまとめました。マニアックすぎず、かつ知的好奇心をくすぐられる内容になっているかと思います。お手に取っていただけると嬉しいです!
<終わり>
★若松康史(わかまつ・やすし)
園芸研究家/1965年、京都府生まれ。草津市立 水生植物公園みずの森勤務。鉢物のオーソリティであり、マニアともいえるほどの球根植物愛にあふれる。
次回は5月号「バラとクレマチス」特集に関連して、4月下旬に更新予定です。お楽しみに!
『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開します。(毎月2回更新予定)