常識を覆してくれた植物――。金子明人さんにクレマチスについて聞いてみた!<後編>趣味の園芸5月号こぼれ話
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める「テキストこぼれ話」。今月は5月号特集「バラとクレマチス」に関連して、「趣味の園芸」講師でおなじみのあの方にインタビュー。
前編では、クレマチスとの衝撃的な出会いについて聞きました。
編集部(以下、編):クレマチスの第一人者、猪野泰三さんとの出会いによって、クレマチスに衝撃を受けた金子さんですが、もう一人、師匠となる方との出会いがあったとか。
金子明人(以下、金):猪野先生と出会ってからしばらくして、もう一つの出会いがありました。クレマチス育種・栽培の権威であった、小沢一薫(かずしげ)さんです。
編:小沢さんと言えば、5月号「形で選ぶクレマチス」でも登場した人気の品種'這沢'の生みの親でもありますね。
'這沢'(撮影:牧 稔人)
金:小沢先生からは、育種について多くのことを教わりました。当時、クレマチスの生産や育種ではつぎ木が主流だったのですが、小沢さんはさし木での増殖技術を確立した方でもあります。
育種のためには妥協しない方で、ときにはビニールハウス1棟分の実生株を、良い花がないからと捨ててしまうこともあったようです。
編:すごい......!強いこだわりを持っていた方なのですね。
金: 育種の要は、花の美しさだけではない、ということも教わりました。花だけでなく、草丈にもこだわること、庭植え/鉢植えのどちらで育てるか、目的に応じて選抜することも大切だと知りました。
編:育てる人のことを思って育種されていたからこそ、長く愛される品種を生み出せたのでしょうね。
その当時の育種の傾向と今の育種傾向では、変化がありましたか。
金:かつて、日本のクレマチスは「ポストの下のクレマチス」と言われていました。
ポストとは、海外の住宅の玄関先などで見る、胸くらいの高さの一本足の郵便受けのことですが、
かつての日本のクレマチスは、ポストの足に絡みつくようなクレマチス、つまり、草丈が低く、目線より下で観賞する品種が多かったから、このように言われていたです。
編:江戸園芸からつながる、鉢ものとして観賞する流れもあるのでしょうか。
金:そうですね。それが、次第にガーデンのなかでも取り入れられるようになってきて、観賞の仕方も多様化し、草丈が高く、横向きや下向きの品種も増えてきました。
僕は、「これもクレマチスなの!?それもクレマチスなの!?」という幅の広さが好きなんだと思います。
編:多様なクレマチスですが、あえて一番好きなクレマチスを選ぶとしたら何でしょう。
金:ずばり'マダム・ジュリア・コレボン'ですね。
'マダム・ジュリア・コレボン'。(撮影:伊藤善規)
僕はこれを、「やんなっちゃうクレマチス」と呼んでいるんですけれども。
編:えっ?
金:いやになっちゃうくらい、咲いてくれるということです(笑)。もう咲いて咲いて咲きまくって、見飽きるほど咲いてくれるんです。これを育てている人が、100花、200花咲かせたとしても、栽培上手とは言わないでしょう。
編:なるほど~。最後に、金子さんのこれからのクレマチスに対する思いを、お聞かせください。
金:育種や栽培では国内外で優れた方がたくさんいらっしゃいます。僕の使命は、TVや雑誌、講習会などでクレマチスの魅力を全国に普及することだと思っていて、そのためにこれからも活動していきたいと思っています。また、新品種が全て優れているとは限りません。既存の品種たちをもう一度見直して、よい品種に再びスポットを当てたい、とも思っています。
編:まだまだ知らない品種や魅力がたくさんありそうです。これからもクレマチスから目が離せませんね!
<終わり>
★金子明人(かねこ・あきひと)
園芸研究家/1962年、千葉県生まれ。ガーデンセンターに勤めるかたわら、「趣味の園芸」講師として知られる。近著に『NHK趣味の園芸 12か月栽培ナビ④ クレマチス』。
「みんなの趣味の園芸」では金子さんの園芸日記を公開中!
次回は6月号「アジサイ」特集に関連して、5月下旬に更新予定です。お楽しみに!
『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開します。(毎月2回更新予定)