育てて、収穫して、自家製コーヒーが飲める! 倉重祐二さんにコーヒーノキについて聞いてみた!<前編>趣味の園芸9月号こぼれ話
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集に登場した、講師の方にインタビューします。専門家の方だけが知っているおもしろい情報が満載です。
今回は、9月号の観葉植物特集で「夢を育てる コーヒーノキ」の講師を務め、植物園でも多くのコーヒーノキを栽培し「にいがたコーヒープロジェクト」の所長でもある、新潟県立植物園の園長・倉重祐二さんが登場します。
編集部(以下、編):おいしいですね~! このコーヒーは植物園でとれた豆を使っているんですか?
倉重祐二(以下、倉):そんな訳ないじゃない(笑)1杯1万円くらいにしないと採算取れないよ(笑)
編:そんなに高いんですか!
倉:まだ国産のコーヒーはほとんど出回っていなくて、沖縄県産のコーヒー豆が30g、約2杯分で1,000円もするくらいですから。それでもスペシャルティ・コーヒーが注目されている今、なかなか手に入らなくて。私も7月に行われたイベントで初めて試飲したばかりです。
編:そうだったんですね。ところで観葉植物の「コーヒーノキ」は、普段私たちが飲んでいるコーヒーと同じ植物なんですか?
倉:同じですよ。観葉植物として苗木が流通しているのは「アラビアコーヒーノキ(Coffea arabica)」で、レギュラーコーヒーとして飲用されるものです。甘い香りと酸味が特徴で、世界のコーヒー生産の約7割を占めています。
編:ほかにはどんな種類があるんでしょうか?
倉:アラビア種のほかには「ロブスタコーヒーノキ(C. robsta)」があり、インスタントコーヒーや缶コーヒーなどの原料になります。栽培が容易で、収穫量が多く、カフェイン含有量がアラビア種の倍ほどあるのが特徴です。もう一つ、リベリア原産の「リベリアコーヒーノキ(C. liberica)」もありますが、生産はごくわずかです。
編:コーヒーの銘柄といえば「ブルーマウンテン」や「キリマンジャロ」などが有名ですが、これはアラビアコーヒーノキの品種なのですか?
倉:アラビア種ではあるんですが、じつは、コーヒーノキの品種はあってないようなものなんです。ほぼ、産地名が品種名のようになっています。産地ごとに異なる土壌と肥料、そして標高が、風味に大きく影響しています。
編:標高ですか。
倉:アラビアコーヒーノキの原産地は、標高800~1,500mの高地で、熱帯地域でありながら通年20℃程度の「常春」とでもいうべき環境です。冬の寒さだけでなく、夏の暑さや強い直射日光も苦手なので、日本では通年室内で育てるといいでしょう。窓越しの光で十分に生育します。
編:季節ごとに出し入れしなくてもよいのは、楽でうれしいです。
倉:そうですね。むしろ、購入したばかりの苗を晴天時に急に外に出すと、1日で葉焼けを起こしてしまうので、注意が必要です。
編:葉焼けのほかには、どんな注意点がありますか?
倉:購入した苗はすぐに植え替えたほうがよいのですが、大きすぎる鉢に植え替えてしまい、冬に過湿になって、根腐れを起こして枯れてしまう、という失敗をよく耳にします。植え替える鉢は、1~2号大きいものがよいでしょう。
それから、成長期に日照や肥料が不足すると、葉色が悪くなって十分に成長しません。ぜひ写真を参考に、葉色をチェックしてみてください。
順調に生育している葉は、黒味を帯びたような濃い緑色で、光沢がある。
編:寒冷地での栽培で気をつけることはありますか?
倉:寒冷地だけに限りませんが、秋遅くまで肥料や水を与えていると成長が続き、急に寒くなったときに新葉が枯れてしまいます。そのとき水が足りないと誤解して、さらに水を与えてしまう、という悪循環になりがちなので、10月中旬以降は肥料を施さず、水やりも控えめにするとよいでしょう。
室内であれば、私の住む新潟でも無加温で問題なく育っています。年に数回、本当に寒い日があると葉が茶色に変色することもありますが、幹に芽が残っていれば、また春に芽吹いてきます。
編:思っていた以上に強い植物なんですね!
倉重祐二(くらしげ・ゆうじ)
新潟県立植物園園長。専門はツツジ属の栽培保全や系統進化、園芸文化史。著書に『よくわかる栽培12か月 シャクナゲ』など。2017年6月より、にいがたバリスタ協会と「From Seed to Cup 〜コーヒーの種からカップまで〜」をテーマに「にいがたコーヒープロジェクト」をスタート。週末は植物園の温室内で「にいがたコーヒーラボ」を営業。コーヒー関連のイベントや講座も開催している。
『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開します。(毎月2回更新予定)