「ガーデンシクラメン」として売り出したかった原種シクラメン...横山直樹さんに原種シクラメンについて聞いてみた!<前編>趣味の園芸12月号こぼれ話
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集に登場した、講師の方にインタビューします。専門家の方だけが知っているおもしろい情報が満載です。
今月は12月号特集「楽しみ広がる! シクラメン最前線」に関連して、『趣味の園芸』講師でおなじみの横山直樹さんにインタビューしました!
編集部(以下、編):原種シクラメンに詳しい横山さんですが、そもそも原種シクラメンに初めて出会ったのはいつなんでしょうか?
横山(以下、横):シクラメン・ヘデリフォリウムはうちの農場のハウスの栽培棚の下にたくさん生えていて、小学生のころからとても身近にありました。もともとは父(園芸栽培農家・横山暁さん)が海外から手に入れたものが、こぼれ種でふえていたんですね。
あまりに身近にありすぎたせいで、そのころは注目に値する植物という風にはまったく思っていませんでした。
クレマチスの丘で咲くヘデリフォリウム
編:しかし今、日本でこれだけ原種シクラメンがポピュラーになったのは横山さんの影響も大きいと思います。どんなきっかけで、原種シクラメンに注目するようになったんでしょう。
横:19歳の時に、イギリスのアシュウッド・ナーセリーに研修に行ったことが大きいですね。
アッシュウッドは原種シクラメンのコレクションと生産で知られるナーセリーですが、そこで目にしたのはそれまで知らなかったヘデリフォリウムやコウム以外の原種の魅力。そして、育種で生み出されたものすごい数のバリエーションでした。
研修の傍ら、これも原種シクラメン専門のタイルバーンナーセリーに行って、また違った方向性でつくられた品種を見たり、ギリシャの自生地を訪ねたりもしました。
タイルバーンナーセリーで育種されたミラビレ
編:ヨーロッパではシクラメンの原種が自生しているんですね。
横:なので、当然戸外の野山で育っていますし、管理されているガーデンにも植えられています。半野生化しており、本当の自生地かどうかわからなくなるくらいです。
余談ですけど、世界的に有名なドイツのノイシュバンシュタイン城やイタリアのコロッセオの周辺でも見かけたことがあります。
編:いろんな国で栽培できているなら、日本でも育てられそうですね。
横:そうなんです!
シクラメンといえば大鉢を室内で楽しむものという、日本での楽しみ方しか知らなかったので、とても驚きました。
それと同時に、「庭で育てるシクラメンは日本でもきっと受け入れられるはず!」という確信がありました。同じシクラメンを庭で、何年も育てられるなんてこんなに楽しいことはないですよ。
これはもう、日本に帰ったら早速たくさんつくって流行らせるしかない!
そう思って、売り出すための名前も考えたんです。
編:それはどんな名前ですか?
横:庭に植えても育てられるということで「ガーデンシクラメン」という名前を考えていました。
しかし、帰ってきて紹介流通させようと思った同じ年に、小型の園芸品種の「ガーデンシクラメン」のほうが先に売り出されてしまったんです...。
編:そんな経緯があったとは...。それで思いついたのが「原種シクラメン」だったんですか?
横:最初のうちは「野生のシクラメン」「シクラメンの原種」なんて言ってみたり、学名のCyclamenからキクラメンなんて呼んでみたりしてましたが、どれも今ひとつしっくり来ない。
そんな中、2004年に『趣味の園芸』テキストで原種シクラメンを紹介する機会がありました。
そこで注目してくれた人たちが、日本の原種シクラメン第一世代なんじゃないでしょうか。 この人たちが、海外からタネや乾燥球根を手に入れて育てたりしはじめて、種や球根を互いに交換するようになっていく中で、呼び方が「原種シクラメン」や略称の「原シク」に落ち着いていったのかなと思います。
チューリップやクリスマスローズの原種が国内でも注目されるようになり、「原種」というフレーズが耳になじみやすくなってきた時期に重なったのもよかった気がしますね。
アフリカナムの大株
横山直樹(よこやま・なおき)
園芸研究家/1978年、東京都、清瀬市生まれ。原種シクラメン、クリスマスローズの育種、生産を行うほか、エディブルフラワーの生産も手がける。著書に『NHK趣味の園芸プラスワンもっとシクラメン』
『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開します。(毎月2回更新予定)