「ガーデンシクラメン」として売り出したかった原種シクラメン...横山直樹さんに原種シクラメンについて聞いてみた!<後編>趣味の園芸12月号こぼれ話
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集に登場した、講師の方にインタビューします。専門家の方だけが知っているおもしろい情報が満載です。
今月は12月号特集「楽しみ広がる! シクラメン最前線」に関連して、『趣味の園芸』講師でおなじみの横山直樹さんにインタビュー。
前編では横山さんと原種シクラメンとの出会いを伺いました。後編では原種シクラメンの栽培のポイントなどを教えていただきます。
編集部(以下、編):イギリスでの研修で原種シクラメンと出会った横山さん。帰国すると国内で普及にさせるためにも、さっそく原種シクラメンの生産をスタートさせたのでしょうか?
横山(以下、横):もちろん生産は始めましたが、いきなりたくさんつくっても、そもそも「原種のシクラメンって何?」という状態です。
いつでも売れるように苗をつくりながら、「よい例」が見られる場所をふやすことも並行して行いました。
編:「よい例」とは?
横:原種シクラメンの中でもC・ヘデリフォリウムやC・コウムのよいところは、日本でも地植えで何年も育てられることですよね?
でも当時、日本でそんな姿が見られる場所はどこにもなかったわけです。
選抜中のピンク葉のコウム
編:美しい庭で咲く原種シクラメンを見られる場所をつくっていかないといけませんね。
横:その通りです。
原種シクラメンの最大の魅力は、屋外で育てられることです。実際に我が家でも育っていたので、それを全国の公共の場所でも育ててみたいと思ったのです。
みなさんにもなじみのありそうな場所でいうと、静岡県の「クレマチスの丘」や京都の「京都府立植物園」などにお願いして、施設内のガーデンに植えさせてもらいました。今から15年ほど前に植えたものですが、どちらも今でもちゃんと花を咲かせていますよ。
そのほかにも宮城県の「国営みちのく杜の湖畔公園」にも、最初、数十株植えさせてもらいました。それなのに、今ではこぼれダネで数千株にもふえて壮観ですよ!
こぼれダネでふえる原種シクラメン
編:日本で原種シクラメンを庭植えにする際には、どんなことに注意したらいいんでしょうか。
横:まず、日本の環境にも合いやすいヘデリフォリウムやコウムを選ぶこと。それから、夏に強い日ざしが当たらず、水はけのよい場所に植えることです。
樹木の下はおすすめですよ。
選抜育種中の青軸ヘデリフォリウム
編:植え場所はどんな場所がよいですか?
横:夏に葉の陰になって、秋からは葉が落ちて明るくなる、水はけのよい落葉樹の木陰はいい場所だと思います。
そのほかに、常緑樹の下もおすすめできます。夏に比べると秋〜冬は太陽高度が低くなって、常緑樹の下にも光が入るようになります。ヨーロッパでもコニファーやオリーブの下でヘデリフォリウムが咲いているのを見ましたし、秋以降に日がさすようなら、常緑樹の下もアリだと思います。
編:以前の横山さんは、「落葉樹の下」という説明だけされていたように記憶していますが...。
横:夏に葉で日よけと雨よけ、秋以降は葉が無くなって日も雨も当たる落葉樹の下というのは絵にしたときもわかりやすいかなと思ってそのように説明していました。
でも、それぞれのお庭にそんな都合のいい落葉樹が必ずあるわけでもないので、最近は太陽高度のことも考慮した説明をするようにしています。
水はけよく育てることが多い果樹の下もおすすめ。
常緑ならオリーブや柑橘類、針葉樹の下でも育ちますよ。
サクラの木の下は雑草が生えにくいといわれますが、原種シクラメンは全く問題なく育ってくれます。
身の回りで夏の高温と過湿が避けられ、秋〜早春によく日が当たる場所を探して、皆さんのお庭でもぜひ原種シクラメンを咲かせてみて欲しいですね。
原種シクラメンはどちらかと言うと庭の目立つ場所でなく、壁際や普段植栽をしないような場所でも育ちますので、庭の隙間、花の少ない季節の隙間を埋める植物として重宝されるものの一つになってもらいたいです。
編:日本に向いているヘデリフォリウムとコウムですが、土の湿り加減の好みが若干違いますよね?
横:ヘデリフォリウムは夏の休眠期にやや乾燥気味を好むのに対し、コウムはもうちょっと湿っている環境を好みます。
詳しくは2018年12月号で詳しく説明していますので、そちらを参考にしてみてください!
横山園芸でこぼれダネでふえる原種シクラメン
<終わり>
横山直樹(よこやま・なおき)
園芸研究家/1978年、東京都、清瀬市生まれ。原種シクラメン、クリスマスローズの育種、生産を行うほか、エディブルフラワーの生産も手がける。著書に『NHK趣味の園芸プラスワンもっとシクラメン』
『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開します。(毎月2回更新予定)