台湾の人にとってコチョウランとは?富山昌克さんにコチョウランについて聞いてみた!<後編>趣味の園芸1月号こぼれ話
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集に登場した、講師の方にインタビューします。専門家の方だけが知っているおもしろい情報が満載です。
前編に引き続き、 1月号特集「鉢で楽しむ着生コチョウラン」の講師を務めた富山昌克さんに台湾のコチョウラン事情についてインタビューしました!
編集部(以下、編):嘉義市には何をしに行ったんですか?
富山(以下、富):嘉義市には、奮起湖(ふんきこ)という観光地があって、そこに行って来たんです。
編:奮起湖、聞いたことがあります。
富:山の上にあるんです。阿里山(ありしゃん)鉄道という100年前の森林鉄道に乗って、行くんだけど、風情があるんですよね。
阿里山鉄道と車窓からの風景
奮起湖駅周辺の様子
奮起湖駅周辺の民家にもお祝い用のコチョウランが
編:山の上に湖があるなんて、なんか不思議ですね。
富:そうそう。そこでみんな一泊して、ご来光を見るみたい。我々は一泊する時間がなかったから、そのまま降りてきたんだけど。行きの電車は人でいっぱいだったけど、帰りはガラガラだったな(笑)。そのままバックして下山していくから、行きと席が同じだと、行きも帰りも景色が一緒になってしまうので、できたら、行きと帰りは左右反対の席を予約しておいたほうがいいと思います(笑)。
編:自生しているコチョウラン、見ました?
富:血眼になって探したんですが、自生しているのは見なかったなー。有名な原種でアマビリスというコチョウランがあるかと思ったんだけど。じつは30年前に台湾に来たときにも発見できなかったから、もう自然では絶滅に瀕しているかもしれませんね。
編:そうなんですかー。
富:でも、エビネやバルボフィラムは見ました。ラン以外では、ベゴニア、多肉植物もあって、ダリアもカラーも咲いてた。フクシアが大木になっていたから、やっぱり涼しいんでしょうね。園芸好きだと、ここは楽園って感じがしました。だって暑がらないし、寒がらないし、どんな園芸植物でも気持ちよく育っていくような気候帯だと思いました。
編:ラン以外の植物も楽園っていえるほど気候がいいんですね。
富:そうなんです。大雑把に言って100m上がると気温は0.6℃下がるので、熱帯圏の標高の高いところは、温暖で最高に気持ちのよい気候帯のところがあるんです。
編:きっと自生のコチョウランにとっても気持ちのよい場所だっただろうなー。
富:自生のコチョウランは見なかったけど、コチョウランが生産されている様子はたくさん見ましたよ。台中はコチョウランを栽培している温室がたくさんあるところなんです。
編:へー、台湾の大切なコチョウラン生産地というわけですね。
富:30年前は台湾はカトレアがいっぱいあって、コチョウランはまだ生産が始まったばかりだったので、いまのコチョウラン大国になった台湾を観ていると、なんだかうれしくなってくるんです。この30年、日本のコチョウラン生産者と台湾のコチョウラン生産者たちが協力しあって、頑張ってきたんですよ。
編:そうなんですか。そしてそのコチョウランがたくさん日本にも入ってきてるんですね。
富:日本では、コチョウランの好きな温度帯の季節は5月~9月の間だけ。それ以外の季節は寒がっていないかな? と心配してあげなきゃいけないんです。そういうところがペットのようで、愛しく感じられるところかもしれません。世話がかかるほうが可愛く思えるものです。
編:手間がかかるからこそ、コチョウランがもう一度開花したらうれしいですし、豪華なコチョウランを観ていると、いつかあんな風に開花させられないかな?って憧れますものね。
富:そうそう。コチョウランに限らず、日本は四季があって気候の変化が大きいから、ほとんどの植物にとって過酷な風土だと思います。だからこそ園芸の芸が映えるんです。園芸の技が必要なんです。
編:なるほどー。
富:そんななかで、上手くいったり、枯らしたり、花が咲いたり、咲かなかったりするから面白いんでしょうね。だから日本人は植物を大切にするし、日本では園芸文化が発達したんだと思いますよ。
編:日本人が植物を愛する気持ちは、その気候が原点だったんですね。台湾のコチョウラン事情にまつわるお話、とても興味深かったです。ありがとうございました。
<終わり>
富山昌克(とみやま・まさかつ)
園芸研究家/1964 年、大阪府生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、ハワイ大学熱帯園芸学部交換研究性を経て、メリクロンアーツおよび富山蘭園・奈良農場代表。著書に「NHK 趣味の園芸 12 か月栽培ナビ③コチョウラン」「NHK 趣味の園芸 よくわかる栽培 12 か月デンファレ」など多数。
『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開します。(毎月2回更新予定)