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花木の苗はこうしてつくられる...上条祐一郎さんにさし木やつぎ木について聞いてみた!<前編>趣味の園芸3月号こぼれ話

ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集に登場した、講師の方にインタビューします。専門家の方だけが知っているおもしろい情報が満載です。

 

今月は 3月号特集「花色いろいろ! 春を彩る鉢植え花木」に関連して、講師を務めた上条祐一郎さんにインタビューしました!

 

編集部(以下、編):樹木栽培家としておなじみの上条さんですが、『趣味の園芸』では特に「剪定」についてわかりやすく教えてくださるイケメン先生として読者のハートをがっちり摑んでいます。

 

上条(以下、上):光栄です(笑)。趣味の園芸では『切るナビ! 庭木の剪定がわかる本』という解説書も担当させていただき、おかげさまでロングセラーになっています。やはり剪定は多くの皆さんが悩むところなのでしょうね。本が売れているということは、樹木そのものに関心を寄せていただいている証拠でもあるので、私としては嬉しい限りです。

 

: 3月号の特集「花色いろいろ! 春を彩る鉢植え花木」に関連して「鉢植え花木の育て方、ここが決め手」という栽培管理の解説も担当してくださいました。そこでも剪定が取り上げられていますね。

 

:テキストでは「春咲き花木」に限って、花を楽しむ(花芽を落とさない)という観点から剪定について解説してみました。

 

:解説のなかに「実生苗」(みしょうなえ)「さし木苗」「つぎ木苗」という言葉が出ていました。実生苗というのはタネから育てた苗のことですよね?

 

:そのとおりです。

 

:気になったのが、「一般につぎ木苗のほうが実生苗より若いうちから花が咲く」とか「低木はさし木苗が多くて、これも若木のうちから花が咲く」などと書かれた部分です。テキストではさらりと触れられていて、その理由までは解説されていませんでした。 タネから育てた苗よりもつぎ木苗のほうが、若いうちから花が咲くのはなぜなのか? そもそも「実生苗」「さし木苗」「つぎ木苗」のように、苗に種類がある理由もよくわからないのですが。

 

:確かに、一般の方にしてみれば理由はわからないかもしれませんね。でも、これらの違いをわかって苗を購入するのと、わからないまま購入するのとでは、育てる際に差が出てきます。

 

編:だからこそテキストで違いを解説してくださったのだと思いますが、その背景にある事情は、どういうものでしょうか。

 

上:実は、樹木の生産には江戸時代から連綿と続く技術が使われていまして、先人たちが創意工夫しながら積み上げた経験が現代まで伝わっています。工業生産品などとは違って、樹木の生産における技術的な土台は、昔と大きく変わってはいません。「実生」「さし木」「つぎ木」といった技術も昔から続くもので、そうしたテクニックが生まれてきたのには、それなりの理由があります。

 

:はあ、江戸時代ですか。かなり大きな話になりそうですね。

 

:歴史の淵に入り込むと話が長くなるので、今日はそこを避けてポイントを絞ってお話しします。 まず、いまお話ししたように花木の生産(増殖)では「実生」「さし木」「つぎ木」の3つが主要な方法です。ほかにニセアカシアの園芸品種の増殖に使われる「根ざし」というテクニックや、一部のシャクナゲの増殖に使われる「メリクロン」という技術もありますが、ここでは端折りましょう。

 

:「根ざし」や「メリクロン」ですか。なんだか難しそうですね。ハイ、端折りましょう。

 

:少し乱暴な言い方になりますが、代表的な3つの方法のうち「さし木」がいちばん面倒がなくていいんです。生産(増殖)をする立場から言うと、本当は全部さし木で増やすことができればラクなんです。

 

:あ、そうなんですね? でも、なぜそうしないんですか?

 

さし木では増やせない、または増やしにくい樹種があるからです。さし木というのは、枝の一部を切り取って用土にさして発根させる方法です。技術的には3つの方法のなかでいちばん簡単で、テキスト3月号で紹介した花木のなかでは、トサミズキやヒュウガミズキ、アセビ、ドウダンツツジなどはさし木で増やします。ほかにもツツジ類やレンギョウなど、多くの樹種がさし木で増やせます。

 

:さし木は小学生の頃に学校でやったことがあるような気がしますが、簡単だから子供でも失敗しないということだったのかもしれませんね。

 

:技術的に簡単だということのほかに、親木とまったく同じ形質のものができる点も大きなメリットです。さし木で作られるのはクローンですからね。それから、1本の木からたくさんのさし穂がとれるので、大量生産にも向いています。ですから、さし木ができる樹種を、わざわざ「つぎ木」で増やすことはしません。

 

20190221こぼれ話_2.jpg

さし木の作業。鹿沼土を主体とした用土に、枝を切り取ってつくった穂木をさしたところ。
ミスト潅水するハウスで湿度を維持し、発根するまで1~2か月間管理する。

 

:さし木はいいことづくめ、ということですか?

 

:そうならいいんですけどね。先ほど言ったようにさし木に向かない樹種があります。向かないとうのは、さし穂から発根しにくいものです。土にさしても発根しなくては意味がないですから。

 

:例えばどういうものですか?

 

:大きな傾向として、さし木に向くのは低木が多い。逆にヤマボウシやハナミズキなどの高木の場合、さし穂から発根しにくいものが多いので、さし木でたくさん作るのは難しい。テキストで紹介した花木ではほかに、ハナズオウ、ミツマタ、ハンカチノキ、リキュウバイなどもさし木で増やすのは難しいので、つぎ木で増やします。

 

:高木はなぜ発根しにくいんですか?

 

:やや専門的な話になりますが、高木の多くは切り口にカルス(分裂を繰り返す未分化の細胞組織)が形成されにくいんです。カルスができるとやがてそこが根に変化していくのですが、一般的に高木はカルスができにくい傾向があります。たぶんそれが理由ではないかと思います。

 

:なんとなくわかりました。ほかにもさし木のデメリットはありますか?

 

:デメリットというほどではないかもしれませんが、つぎ木に比べると、さし木から育てるのには時間がかかります。もともと根がないものを土にさすわけですから、発根したあと根がしっかり伸びるまでに時間がかかる。つまり初期成長がゆっくりなんです。逆につぎ木の場合はもともと根がある「台木」に「穂木」をつぐわけですから、初期成長はずっと早い。つまり短期間で大きくなる(出荷できる)というメリットがあります。

 

:へえ~、それはかなりのメリットですね。

 

:花木の場合、一般的にさし木から育てると花が咲くまでに2~4年かかりますが、つぎ木なら1~2年で咲きます。例えばヤマボウシの場合、2~3月につがれた20cmほどの大きさの苗が、11~12月には1mほどの大きさになるので、その段階で出荷できます。さらにもう1年育てれば花を咲かせて出荷することもできます。一般のお客さんは花が咲いていると買いたくなるでしょう?

 

:それはそうですね。先ほど上条さんは「全部さし木で増やせればラクでいい」とおっしゃっていましたが、出荷までの期間が短いというお話をうかがうと、生産者としてはつぎ木のほうが魅力的ではないのでしょうか?

 

:確かに早く出荷できるので、その点だけ見れば魅力的です。でも、つぎ木をするには台木を別に用意しなくてはなりませんし、形成層をぴったり合わせてつがなくてはならないという技術的な難しさがあるんです。ほかの仕事もやりながらつぎ木の生産もやるのは、あまり現実的ではありません。樹木生産の業界は分業になっていて、つぎ木は専門業者の方々が担当しています。私たちのような樹木の生産者は、つぎ木専門の方々がついだ苗を購入して、それを大きくして出荷しています。

 

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ハナミズキのつぎ木苗。このように根の土をふるった苗を「裸苗」という。

 

: つまり、さし木はご自身でやりながら、つぎ木は専門の方から苗を購入して大きく育てるという分業になっている、ということですか。

 

:私の場合はそうですね。さし木では発根しにくい樹種はつぎ木苗を購入して大きくするわけです。

 

後編はこちら

 

20190221こぼれ話_profile.jpg

上条祐一郎(かみじょう・ゆういちろう)

樹木栽培家/大学卒業後、宿根草を扱うアメリカの園芸農家で修業。帰国後、長野県で種苗園(丸八種苗園)を経営。日本の在来種から園芸品種まで、さまざまな樹木苗を生産している。主な著書に『NHK趣味の園芸 切るナビ! 庭木の剪定がわかる本』(NHK出版)など。

 

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『趣味の園芸』3月号 最新号の見どころを紹介

 

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「みん園」限定! 趣味の園芸テキストこぼれ話

『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開します。(毎月2回更新予定)

 

 

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