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花木の苗はこうしてつくられる...上条祐一郎さんにさし木やつぎ木について聞いてみた!<後編>趣味の園芸3月号こぼれ話

ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集に登場した、講師の方にインタビューします。専門家の方だけが知っているおもしろい情報が満載です。

 

今月は 3月号特集「花色いろいろ! 春を彩る鉢植え花木」に関連して、講師を務めた上条祐一郎さんにインタビュー。前編に引き続き、上条さんに「さし木」や「つぎ木」という技術が使われる理由ついてお聞きしました!

 

編集部(以下、編):趣味で木を増やす場合のことを教えてください。さし木とつぎ木の使い分けを考える際には、さし木での発根性(発根のしやすさ、しにくさ)のほかに、何か注意点はありますか?

 

上条(以下、上):つぎ木の場合は、前回お話しした技術的な難しさでしょうか。ただ、仕事として大量にこなす場合には大きな課題になりますが、個人の趣味としてやる場合には、時間をかけて丁寧にやれば失敗を減らせますから、さほど問題ではないとも言えます。もう一つ、つぎ木には樹形が整いにくい傾向があるので、そこは注意が必要です。

 

: 樹形に関しては3月号のテキストのコラムにも書かれていましたね。つぎ木苗は実生苗に比べて樹形が整いにくい、と。横向きに伸びる枝を穂木として使うため、つぎ木をしたあとも枝としての性質が抜けずに、まっすぐな幹になりにくいということでした。

 

:そうです。ですから成長するにしたがって、剪定でうまくコントロールしていくことが大切です。つぎ木ではほかに台木から伸び出るひこばえを放置しない、ということも重要です。放置すると、台木のひこばえに栄養が奪われてしまい、本来育てたい穂木の勢いが削がれますし、そもそも欲しくもない木が大きく育つことになりますからね(笑)。一方、さし木では別の木のひこばえが伸び出る心配はありません。そこがつぎ木とさし木の違いです。

 

: さし木では、樹形が整いにくいといった問題はないのですか?

 

:先ほどもお話ししたように、つぎ木と違って、さし木は低木で行うことが多いわけです。幹が1本まっすぐに立ち上がる高木とは異なり、そもそも低木の場合は樹形の乱れが気にならない。株立ちになるものなどは特にそうです。

 

:なるほど、そういうことですか。ところで、つぎ木をするときの台木はどのように選ぶのでしょうか?

 

:ひとことで言えば、つぎやすさ。つまり、ついだあとにきちんと育つかどうかです。増やしたい樹種の「原種」を台木とするのが理想で、これを「本台」と言います。例えばモモなら実生で育ったヤマモモを台木としますが、これが本台です。本台でない場合も、台木と穂木が分類学的に近いもののほうがつぎやすいので、モクレンならコブシの台木につぎますし、ハナミズキは、実生で育てた白花ハナミズキの台木かヤマボウシの台木につぎます。

 

:分類学的に近いもの、というお話は直感的にわかります。

 

:ところが、なかには近縁ではない樹種同士でつぐこともあります。例えばライラック(モクセイ科ハシドイ属)はセイヨウイボタノキ(モクセイ科イボタノキ属)の台木につぎます。科は同じですが、属が違います。それでもライラックの場合はつげるんです。

 

:え? なぜ属の違うものに? ライラックの原種を台木にすればいいのに。

 

:ライラックは実生しにくい(タネから育てにくい)ので、台木を効率よく作れないんですよ。まったく実生しないわけではないけれど、生産現場では非現実的だということです。それでは困るというので、我々の先輩たちがなんとかしようといろいろ試しているうちに、誰かがセイヨウイボタノキの台木ならつげることを突き止めたんでしょうね。

 

:へえ~、面白いですね。さし木、つぎ木に親しみがわいてきました。

 

:ほかにも面白い例がありますよ。サクラはたいていマザクラという台木専用の品種を使ってつぎ木をしますが、その台木には根がないんです。

 

:根がない? それではさし木のようなものじゃないですか。

 

:ふふふ。でも、実際にそうなんです。人差し指程度の太さのマザクラの枝をタバコほどの長さに切って「台木」にして、そこに作りたい品種の穂木をつぎます。そして根のないマザクラの台木ごと土にさしておくわけです。

 

:う~ん、やっぱりさし木と同じような感じですね。

 

:ついでいるので、さし木ではないですね。マザクラというのは極端に発根性がいい。抜群の発根力のおかげで問題なく根が出て、苗を効率よく作れるわけです。

 

:いや~、面白いですね。ますますさし木、つぎ木に親しみがわいてきました。ところで、いままでのところ「実生」に関してはほとんどお話をうかがっていないのですが、実生で増やす樹種はないのでしょうか?

 

:テキストで取り上げた花木では、クロモジやジューンベリーの'カナデンシス'という品種などがそうです。実生で増やすことが多いのは庭木のなかでも緑を楽しむ樹種、たとえばカエデ類やカツラ、シラカバなど。それからカシやケヤキ、ヤマボウシの大型種などの公園樹、杉を代表とする針葉樹などで、これらはほとんどが実生です。

 

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畑で栽培されるシラカバやヤマボウシなどの実生苗。一部はつぎ木の台木などとして使われるが、多くはそのまま苗木として出荷される。

 

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育苗箱でのイロハモミジの実生栽培。発芽して本葉が開き始めた段階。

 

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プラグトレーに1年生実生苗を移植して、展葉が始まったハウチワカエデ。成長が遅いこのような種類は1年に5cmほどしか伸びない。

 

:実生で増やす花木が少ないというのは、何か理由がありますか?

 

実生は苗を大量に安く作れるというメリットがある一方、個体差が出て、必ずしも親とまったく同じ形質にはならないからです。タネから育てたときに原種なら個体差も大きくありませんが、人間が改良を重ねた園芸品種では先祖返りする割合も多く、個体差が大きすぎて同じものを安定的に生産できないんです。花木は花を楽しむ樹種なので、花の形や色が大きく異なると意味がありません。

 

:ということは、花木の生産現場では実生はあまり使われない技術なんですね。

 

:それが、そうとは言えないんです。というのも、ほとんどの品種のつぎ木で用いられる「本台」の台木は実生で作られることが多い。つぎ木には実生が欠かせないわけです。つまり花木の生産現場でも実生苗はなくてはならない、ということになります。

 

:なるほど~。最初におっしゃっていた、実生、さし木、つぎ木が3つの主要な技術だという理由がよくわかりました。興味深いお話、ありがとうございました!

 

<終わり>

前編はこちら

 

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上条祐一郎(かみじょう・ゆういちろう)

樹木栽培家/大学卒業後、宿根草を扱うアメリカの園芸農家で修業。帰国後、長野県で種苗園(丸八種苗園)を経営。日本の在来種から園芸品種まで、さまざまな樹木苗を生産している。主な著書に『NHK趣味の園芸 切るナビ! 庭木の剪定がわかる本』(NHK出版)など。

 

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『趣味の園芸』3月号 最新号の見どころを紹介

 

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「みん園」限定! 趣味の園芸テキストこぼれ話

『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開します。(毎月2回更新予定)

 

 

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