名古屋ゆかりの植物学者、「伊藤圭介」と歩く東山動植物園「桜の回廊」
皆さんは日本の理学博士第1号を知っているでしょうか。
近代日本で「学位令」という制度がスタートしたのが明治20年(1887年)、その翌年5月、5人の理学博士が誕生しています。そのなかの一人が名古屋出身の植物学者、伊藤圭介(1803~1901)でした。
名古屋市東山動植物園「伊藤圭介記念室」によると、日本で最初の理学博士、伊藤圭介は江戸時代後期、名古屋市内で町医者の次男として生まれました。生家は、地元では「きんさん」と呼ばれる中心部の繁華街、中区三丁目付近です。後年、町医者として、植物学者として活躍した伊藤圭介ですが、幼い頃から植物に関心を持ち、長崎のシーボルトのもとで西洋医学や植物学を学んでいます。
面白いことに、私たちが使っている「おしべ」や「めしべ」、「花粉」といった言葉は、伊藤圭介に由来していました。彼はシーボルトから譲り受けたツュンベリー『日本植物誌』をもとに、日本の植物の和名などを紹介した『泰西本草名疏(たいせいほんぞうめいそ)』を文政12年(1829年)に刊行しますが、そのなかで初めて「おしべ」や「めしべ」、「花粉」という言葉を作ったのだそうです。
やがて明治。伊藤圭介は新政府の要請で東京に出て文部省に出仕し、小石川植物園などに勤務、東京帝国大学教授なども務めています。植物学の第一人者として多くの仕事や研究に携わった功績が評価され、学位論文なくして「理学博士」が授与されたのです。
伊藤圭介が残した資料のなかに、東山動植物園が所蔵する『桜譜』があります(サクラの花が鮮やかに数多く描かれ、今では見られなくなったサクラも描かれているそうです)。その『桜譜』に掲載されている16種類を含む、約100種類1000本のサクラを植栽して整備されたのが、テキスト『趣味の園芸』3月号巻頭掲載の東山動植物園「桜の回廊」です。早咲きのサクラから丘の上にむかって咲き上がり、晩春に咲く「兼六園菊桜」などへと続いていきます。
いよいよ桜前線が気になる季節到来。偉大な先達、伊藤圭介を暫し思い浮かべながら、なだらかな桜坂を「お花見さんぽ」してみてはいかがでしょうか。
(取材協力:名古屋市東山動植物園)
★『趣味の園芸』3月号(2/21発売)巻頭掲載の「桜満喫! 植物園でお花見散歩」では、東山動植物園の「桜の回廊」を紹介しています。どうぞご覧ください。
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【不定期連載】 園芸LOVE 原田が行く
「みんなの趣味の園芸」スタッフであり『趣味の園芸』シニアエディター・原田による園芸エッセイです。