Mr.パンジー、落合英司さんに聞く、色の秘密。<前編・パンジーには3つの"赤"がある>趣味の園芸11月号こぼれ話
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集に登場した、講師の方にインタビューします。専門家の方だけが知っているおもしろい情報が満載です。
今回は、11月号の「パンジー&ビオラ」特集で「花いっぱいに育てる5か条」の講師を務めた落合英司さんが登場。育種から生産まで、パンジー&ビオラの裏側を知り尽くした落合氏が、色にまつわる新常識を明かしてくれました。
前半は、赤いパンジーにまつわる秘密から。一見おなじに見える赤色にも、じつは違いがあるのだとか。
落合英司(以下、落):突然ですが、この3つのパンジーは、それぞれ何色に見えますか?
編: えーっと、どれも赤、ですよね?
落:正解といえば正解、不正解といえば不正解ですね。
編:と、言いますと?
落:たしかにこれらは、ホームセンターでは「パンジー(赤)」として、同じコーナーに並んでいるものです。
しかしじつは同じ「赤」でも、私から見ると、一番目はノーマルの赤(レッド)、二番目はスカーレット系の赤、三番目はローズ系の赤、と区別がつきます。
そしてここからが本題ですが、どの系統の赤かによってそれぞれ性質も異なります。
編:性質が異なる、とはどういうことでしょうか。
落:ノーマルの赤(レッド)はコンパクトにまとまって育つ。スカーレット系の赤は伸びやすく、徒長もしやすい。ローズの赤系は強健で育てやすく、一株で大きく立派な株にしやすい。という具合です。
編:どうして違いがでるのでしょう。
落:秘密はずばり、遺伝子にあります。
中学で習う、メンデルの法則をおぼえていますか。
丸とシワ、緑と黄色の形質をもつエンドウを掛け合わせると、緑色で丸のものが一番多く現れ、黄色でシワのものがもっとも少ない、というあれです。
編:なんとなく思い出してきました。
落: 詳しい説明は割愛しますが、ようするに、エンドウにおいては緑丸が顕性(優性)、黄シワが潜性(劣性)なので、自然に交配していたら、緑丸の割合が多く出る、一番つくりやすいタイプと言えます。このような出現しやすさの関係を、パンジーがもつ色の遺伝子におきかえると、すこし複雑になりますが、このようになります。
編:つまり、青色が一番出やすくて、黒色が一番出にくい形質、ということですね。
落:そうです。青や黄のパンジーは出やすいぶん育種もしやすいので、花つきもよく、株も大きくなりやすいです。いっぽうで黒やオレンジは、どうしても育種個体が少ない状況で育種するので、それらに比較すると花つきや耐病性で劣ります。
そこで、最初の質問に戻ります。
おなじ「赤」パンジーでも3つのパターンにわかれると言いましたが、
じつはローズ系の赤には青系の遺伝子が入っているので、3つのタイプのなかではもっとも強健で、株が作りやすいのです。
編:おなじ赤でも成り立ちが違うんですね。
落:ほかにも色による性質の違いがありますよ。いくつか紹介しましょう。
落合英司(おちあい・えいじ)
園芸研究家/鳥取大学大学院農学研究科修了。都内の園芸関連会社に勤務。パンジー&ビオラなどの育種に携わり、その性質や品種を知り尽くした"Mr.パンジー"。
『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開します。(毎月2回更新予定)