Mr.パンジー&ビオラ、落合英司さんに聞く、色の秘密。<後編・ピンクのパンジーは最難関!?>趣味の園芸11月号こぼれ話
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集に登場した、講師の方にインタビューします。専門家の方だけが知っているおもしろい情報が満載です。
今回は、11月号の「パンジー&ビオラ」特集で「花いっぱいに育てる5か条」の講師を務めた落合英司さんが登場。前半では、同じ赤色でも、持っている色の遺伝子によって性質に差がある、というお話を聞きました。
後編では、さらに色ごとの特色を聞きます。そしていま、育種家が追い求めている究極のパンジーとは......。
編集部(以下、編):赤以外の色についても聞かせてください。
落合英司(以下、落):白にも2タイプあります。青が混じった純白に近い白と、黄色がまじったクリーム色に近い白です。
前者が花弁が薄く寒さに弱いのに対して、後者は花弁が厚く、寒さにも強いです。
オレンジは、前編の表をみるとわかる通り、株ができにくく、花つきも悪いです。そのため、オレンジ花の育種には時間がかかり、F1パンジーは約25年前、F1ビオラはほんの20年前に世に出ました。
ただ、難しいわりに人気が高い色なので、育種がさかんに行われ、花つきなどずいぶん改善されてきています。
前編で紹介した、パンジーの遺伝子における色の出現しやすさを表した図
黒も同様につくりにくい色ですが、オレンジほどの出荷量がないので、育種も進んでおらず、暴れやすかったり徒長しやすかったり、というものが多いですね。
パープル(青系)の血が入った黒は、すこし強い傾向にあります。
太陽光に透かすと、青っぽく見えるので分かりますよ。
編:青や黄に比べると、育てるのもやや難易度高め、ということですね。
同じく人気の高そうなピンクはどうですか?
落:ピンクはいま、パンジー&ビオラの育種においてはもっともアツい!と言ってもよいでしょう。各社が精力的に取り組んでいます。
ピンク色のパンジー
編:どうしてですか。
落:はっきりとした原因はまだわかっていませんが、ピンクやラベンダー系はどうしても色にムラができてしまうのです。ピンクとして売っている種子をまいても、赤(ローズ)に近いものからほとんど白に見えるものまで、さまざまな株ができてしまいます。そのため、カタログでピンク花を見ると、必ずと言ってよいほど、色幅についての注記があり、複数の写真が掲載されていることが多いです。
そこで、育種家は、いかにピンク色を安定させられるか、ということを今頑張っています。
編:現在進行形で育種が進んでいるのですね。咲き方も、フリルや八重など、多彩になっている気がします!
落:そうですね。とはいえ、パンジー&ビオラの育種において、まったく新しい色、フリルや八重などの新しい形をつくるという流れは、いったん落ち着いたように思います。
ここ10年は、より育てやすく、花つきよく、病気にも強いものを、ということが追及されています。
編:より身近な花として、ますます人気が出そうですね。
でもやっぱり、見たことのない色のパンジーやビオラを見られたら、という気持ちもありますが......。
落:たとえばどんな?
編:緑とかどうでしょう?クリスマスローズのような緑色のパンジーがあったら面白そうです。
緑色のクリスマスローズ。こんな色のパンジーも見てみたい!と膨らむ妄想。
落:たしかにこういう色は まだ出ていないですね。じつはかつて「緑」として売り出されていたパンジーがあったのですが......。
今思うと、あれは緑じゃなくて黄色でした(苦笑)。
編:色ごとの違いは、ビオラも、同様なのですか?
落:ビオラも色についてはパンジーと同様です。
ただ、ビオラはパンジーより野生に近いため、強健で、つくりやすいです。
色に加えて、二色咲き(バイカラー)、ひげ、ブロッチ、フェイスタイプ、クリアカラー(無地)の順で優性です。
編:色ごとの特徴を知って、苗を見る目がちょっと変わりそうです。
落: 育種の苦労に差はあっても、値段は変わらないことも多いので、ふだんは意識されないと思います。売り場の苗をじっくり見て、その株の成り立ちに思いをはせてみてくださいね。
<終わり>
落合英司(おちあい・えいじ)
園芸研究家/鳥取大学大学院農学研究科修了。都内の園芸関連会社に勤務。パンジー&ビオラなどの育種に携わり、その性質や品種を知り尽くした"Mr.パンジー"。
『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開します。(毎月2回更新予定)