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クリスマスローズ「原生地の旅」での衝撃体験 <前編・困難を乗り越えて出会ったクリスマスローズ>趣味の園芸2月号こぼれ話

ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集内容に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をお届けします。

 

2月号でクリスマスローズの最新トレンドを「7つのキーワード」で解説した野々口 稔さんは、クリスマスローズの原生地を巡る旅を14年前から続けています。

14年間で忘れられない思い出は? と尋ねたところ「ありすぎて語りきれませんが・・・」と野々口さん。今回は、その中でも特に衝撃を受けた体験についてのエピソードをお送りします。

 

前編は、原生地で野々口さんが経験したスリリングな出来事のお話です。

 

まずは出発からトラブル発生

 

私が「クリスマスローズの原生地を訪れる旅」を開始したのは2006年です。目的は、大好きなクリスマスローズが自然の中で咲く姿を、自分の目で確認するため。最初の旅先として選んだのは、旧ユーゴスラビアの一部だったモンテネグロでした。当時、モンテネグロは隣国のセルビアと国家連合をなし、セルビア・モンテネグロと言われていました。2006年6月に独立し現在のモンテネグロとなるのですが、私が旅をしたのはその直前の、残雪が残る4月上旬でした。

 

私はその年以降、バルカン半島を中心に、ハンガリー、クロアチア 、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、北マケドニア、そしてスイス、イタリアまで、クリスマスローズの咲く姿を求めて旅しています。しかし最初の年に訪れたモンテネグロは、私にとって特別の場所です。

ここでは、モンテネグロにまつわる驚きのエピソードをお話しします。

 

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2006年、のどかな春のモンテネグロ。

 

「体調が悪いので現地には行けない。航空券は成田まで持って行く」。空港に到着した直後、A氏から電話を受けた私は、あぜんとしました。2006年4月、初めての旅で、何の知識もない私は、育種家のA氏に航空券や現地ガイドの手配を全部お任せして、成田空港に来たのでした。まずは出発からトラブル発生です。

「モンテネグロに着いたら、ガイドが待っているので大丈夫」とA氏から言われますが、私の思考回路はストップしたまま。空気を打ち破ったのは、唯一の同行者、カメラマンB氏の一言でした。

「取りあえず、行ってみよう」。

 

モンテネグロのポドゴリツァ空港に着いて、ガイドに会えたときの喜びは忘れられません。そのガイドこそ、その後、私にとって大切な友人となったヴィンチェックさんでした。彼は当時80歳。A氏が大学の先生から紹介してもらった植物学者です。自家用車でモンテネグロに自生するH.ムルチフィダス・ヘルツェゴヴィヌスとH.トルカータスの原生地を案内してくれました。

 

そこで驚くべきことが!

 

あるトルカータスの原生地に着いたときのこと。ヴィンチェックさんに「後で行く」と言われたので、私はB氏と二人で先に車を降りて散策し始めました。すると、「来て!来て!」とB氏の緊迫した声が聞こえてきました。行ってみると、なんと文献でしか見たことがなかった多弁花がそこにあったのです。B氏は写真を撮っているので、私はヴィンチェックさんを呼びに車まで戻りました。ところがヴィンチェックさんは電話中でなかなか話し終わりません。

 

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トルカータスの原生地に緊張が走る。

 

少し時間が経ってからB氏の元に戻ると、またまた緊迫した雰囲気を感じました。私がいない間に大男が二人、ライフルを構えてやって来て、「スパイか、警察に通報するぞ!」と騒ぎ出し、B氏は困惑していました。言葉も満足に通じない中、ヴィンチェックさんの名前を出したら、スパイでないことが理解され解放されたとのことでした。その時知ったのですが、ヴィンチェックさんは、地元の名士だったのです。

 

2006年当時は、まだまだ戦争の傷跡が残っていたのでしょう。この運命的な多弁花の写真は、2007年刊行の『別冊NHK趣味の園芸 クリスマスローズのすべて』の113ページに掲載されました。カメラマンB氏の渾身の写真です。

 

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運命的な多弁花。この写真は野々口さんが撮影したもの。

 

その後も訪れたモンテネグロ

 

2006年に初めてモンテネグロを訪れ、ヴィンチェックさんと知り合った後、モンテネグロには、2010年、2011年、2013年、2014年、2015年、2017年と合計7回訪れました。

 

2006年に訪れたときは、奥様に先立たれて、その思い出の地で余生を暮らしたいと仰っていたヴィンチェックさんが、2010年に訪問したときには再婚されていたのも驚きのエピソードでしたが、一番印象に残るのは2011年4月初旬にバルカン半島を訪問したときのことです。

 

この年の3月11日、それは「東日本大震災」が起こった日でした。多くの犠牲者の方々がいらっしゃる中、その直後の旅に戸惑いもありましたが、そのときは旅行会社主催で、私は講師としての参加だったので、行くことにしました。

 

入国検査で日本人はトラブルに遭うかもとメディアで騒がれていましたが、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナまで何の問題もなく通過して、4月6日、最後にモンテネグロに入国する際に、それは起こりました。それも、当初予定していたメインの国境検問所ではなくて、新たなクリスマスローズの発見を求めて、私の発案で少し寂れた国境検問所を通過する際に起こった出来事でした。

 

入国審査で日本人だと知ると、警官はライフル銃を小脇に抱え、バス入り口から覗き込むようにして、「バスから降りてはダメ、トイレで外に出てはダメ」と指示。参加者達の間には、暗い雰囲気が漂いました。

3時間半ほど、待たされたでしょうか。ふと見ると、一台の乗用車が乗り付けて、ラフな感じの検査官がバスに乗り込み、ガイガーカウンターで放射能を計測し始めたではないですか。もちろんこれで検出されるはずはないし、それが分かっている検査官も、ニコニコしていました。でも、そのときの参加者達の顔は、かなり引きつっていました。

 

なんとかモンテネグロへの入国は許されましたが、バスの中はどんよりとした雰囲気に包まれていました。その中で、ある参加者が「クリスマスローズがある!」と声をあげたので、バスから飛び降りました。そして、驚きのあまり、皆言葉を失いました。

 

原種といえば小柄なイメージで、特にH.ムルチフィダス・ヘルツェゴヴィヌスは、繊細な原種と思われていました。でも、そこに生えているのは大株ばかりです。その日は国境通過で時間がかかり、19時を過ぎ薄暗くなってきたので、改めて翌日、4月7日に早起きしてもう一度新発見の場所を訪問しました。

 

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大株のムルチフィダス・ヘルツェゴヴィヌス。

 

ただ大株というだけでなく、銅葉だったり、芝生よりも細い極細葉だったりと、もう夢のような世界。そしてきわめつけは、H.ムルチフィダス・ヘルツェゴヴィヌスのピコティーとベイン付きの花の発見でした。それまで無地の花が一般的な原種なので、大発見でした。

 

これらの花は、2016年に出た『NHK趣味の園芸 プラス・ワン もっとクリスマスローズ』の55ページに掲載されています。

 

撮影:野々口 稔

 

後編はこちら <常識破りの発見劇>

 

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野々口 稔(ののくち・みのる)

園芸家/「HELLEBORUS倶楽部」代表。毎年クリスマスローズの原生地を訪れ、原種、分布状況、生育環境などの研究を行っている。講演活動などを通し、クリスマスローズの楽しみ方を普及。著書に『NHK趣味の園芸12か月栽培ナビ②クリスマスローズ』(NHK出版)など多数執筆。

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★モンテネグロに自生する、H.ムルチフィダス・ヘルツェゴヴィヌス、H.トルカータスについては、野々口さんの日記でも沢山紹介されています!

H.ムルチフィダスに関する日記

H.トルカータスに関する日記

 

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『趣味の園芸』2月号 最新号の見どころを紹介

 

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