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クリスマスローズ「原生地の旅」での衝撃体験 <後編・常識破りの発見劇>趣味の園芸2月号こぼれ話

クリスマスローズ「原生地の旅」での衝撃体験 <後編・常識破りの発見劇>趣味の園芸2月号こぼれ話

ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集内容に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をお届けします。

 

2月号「クリスマスローズの無限の美しさに迫る7つのキーワード」の野々口 稔さんが14年前から続けているクリスマスローズ原生地の旅。前編は、原生地で野々口さんが経験したスリリングなエピソードをお話しいただきました。

 

後編は、原生地で発見したクリスマスローズとの、常識破りの出会い方についてです。

 

それでも行きたいモンテネグロ

 

2011年に、国境通過のアクシデントという過激な出来事を経験したものの、その後のモンテネグロの旅は全てが好転しました。

 

交配種(園芸種)ではダブルは当たり前ですが、原種において、ダブルはとても希少な存在です。まず、その前提でお読みください。

 

忘れもしない2014年4月3日、この日は、ヴィンチェックさんの紹介で知り合ったガイドのイワンさんの案内で、コラシン周辺のトルカータスの原生地を巡りました。新しい場所を紹介すると言われて、参加者たちは完全にギアが「ダブルを探せ」モードに入っていました。2013年にモンテネグロで個人育種家のC氏がダブル(SIRIUS-Ⅰと命名)を発見したため、新しい場所という言葉に大きな期待を抱いたのです。しかし、皆で探し回ってもダブルは見つからず、諦め始めました。

 

そこは川沿いの崖地で眺めがよかったので、皆、風景写真を撮り始めました。そこに「ダブル!」と、C氏の叫び声が響きました。前年に続いてのダブル(SIRIUS-Ⅱと命名)発見です。

 

そして、次に訪れたのは、前年C氏がダブルを発見した地点。おのずとダブルがあった場所めがけて全員が突進しました。でも、ありません。ここでも、皆、諦めて周囲の花の写真を撮り始めました。私も綺麗な花を見つけて写真を撮り始めました。周囲に生えているトルカータスを踏んづけてはいけない、と足元を確認すると......。「え、これはダブル~」。私もダブルを発見できました。

 

ダブル・グリーン・ピコティーの花で、命名するのが流行りだったので、私は「Maria」と命名しました。

 

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野々口さんが発見したダブルの花「Maria」。

 

一日に2株もダブルを発見でき、満足感でいっぱいになりました。しかし、ここからが本題となります。これまでの話は、単なる序章に過ぎませんでした。

 

次に訪れた場所は、風の噂で「フランス人のプラントハンターがダブルを3株発見した場所」だと聞いていました。そうはいっても、広大な場所で、川沿いの山斜面に沿って山道が一本あり、幅100m以上、道沿いに500m以上にわたって広がる広大な場所です。いくらなんでもダブルが発見された場所という情報だけでは、砂の中から針を探すように大変なことです。参加者たちは三々五々に散らばっていきました。ここはかなりの急斜面。スーパーボランティアの尾畠春夫さんが、「小さい子どもというのは、下に降りるのではなく、上の方に登る習性がある」と話されていましたが、面白いことに我々大人も、斜面を登りはしてもなかなか下らないものです。私も、ちょっとだけダブルを期待して山道を進みながら、時折斜面を登っていました。

 

ダブルの女神、降臨!

 

「ダブルの女神」。この言葉は、過去の調査の中で、何回もダブルを発見した女性参加者のDさんのことです。クリスマスローズを特に育てているわけではないのに、なぜかこの調査団に参加されている女性です。何でも、普通のツアーでは行かないような中欧ヨーロッパの田舎町に行けるから面白いそうです。

そのDさん、何を思ったか、川に向かって斜面を降りていったのです。突然、遠くから、Dさんの叫び声が聞こえてきました。最初は、滑落したか、何か事故かなと心配して、その声の方向に急いで向かいました。だんだんと声がはっきり聞こえてきました。「ダブル~! ダブル~!」

 

なんと、ダブルを発見してしまったのです。集まった参加者が最初にしたことは、発見されたダブルの斜面下側を探しに行くことです。タネが落ちて、下側でダブルが咲いているのではと考えたのです。でも、見つかりません。そうこうしていると、Dさんが、「これもダブル!」。えっ、2株目です。下側でなくて、横にいました。そして、参加者達が発見されたダブルの写真を撮るため、順番待ちしていたら、「これも?」とDさん。また、横にダブルを発見。合計3株。先入観にとらわれず、無欲な人だから見つけられたダブルです。まさに「ダブルの女神」。

 

フランス人のプラントハンターがダブルを3株発見した場所で、砂の中から針を探してしまったDさん。すごいとしか言えません。ここで発見されたダブルも命名され、それぞれ「Sanja」「Ana」「Sandra」と名付けられました。ちなみに、名前は、ガイドのイワンさんに、モンテネグロで一般的な女性の名前を教えてもらって付けました。でも、後日、Sanjaは、イワンさんの恋人の名前、Sanja(サーニャ)さんであることが分かり、皆、無言で納得しました。

 

これらの花は、『NHK趣味の園芸 プラス・ワン もっとクリスマスローズ』の60ページに掲載されています。

 

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「ダブルの女神」が発見した「Sanja」。

 

ダブルが一日で5株も発見されてしまうと、今まで燃え続けてきたダブルモードは一気に醒め、どちらかというと普通の綺麗な花や景色を楽しむようになりました。希少な個体を発見したいという欲望は誰しもが持っていると思いますが、その時から、よりフラットに自然とたわむれることに喜びを感じるようになりました。「ダブルの女神」様のおかげで、少し大人になれたかな。

 

一日じゃ終わらない驚きの連続!

 

ダブルの大量発見翌日の4月4日、「テレビ取材が来るので立ち寄ってほしい」とヴィンチェックさんから言われていたので、夕方遅くヴィンチェックさんの家に向かいました。そして、ビックリしました。モンテネグロの放送局から本格的なクルーがやってきているではないですか。

 

モンテネグロ語で指示を飛ばすディレクター。イワンさんがそれを英語に翻訳してくれました。でも、私の英語は標準以下。ディレクターにせかされてイワンさんが早口になり、そしてくだけてくるので、さらに意思疎通ができなくなりました。質問されて「Yes. No.」ではなく、けっこう一人で語らなくてはいけないのがモンテネグロ。頭の中は真っ白。代わる代わるに参加者達を巻き込んで、何とか収録が終わりました。冷や汗びっしょりでした。

 

マスコミの取材は2017年にもありました。今回は新聞社です。ほぼ一面にわたるスペースを使い取り上げてくださいました。にこやかに写っている参加者たちの写真やヴィンチェックさんのコメントも掲載されていました。でも、モンテネグロ語なので詳しくは何が書かれているのか、いまだにちょっと不安です。

 

私について「Professor」と書かれているみたいですが、けっしてそう名乗っていませんから。

 

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モンテネグロ新聞に載った野々口さん(撮影はIvan Gradinić)。

 

いずれにせよ、日本から来たクリスマスローズの調査団の訪問を、モンテネグロの方々が好意をもって迎えてくださったことに感謝感激です。小さいことですが、両国の懸け橋になれたかなと、自己満足しています。

 

2017年を最後に、2018年、2019年はモンテネグロを訪問していません。幾度もモンテネグロを訪れる中で、2011年に起きたモンテネグロの国境通過のアクシデントは驚きであり、正直なところモンテネグロの印象が悪くなったのは確かです。しかし、この後ヴィンチェックさんにお会いしたとき、その第一声は、震災被害に遭われた日本国民に対する深い労りの言葉でした。そして、希少なダブルの発見や地元マスコミとの繋がりなどの経験を経て、ヴィンチェックさん、そしてモンテネグロの人々、モンテネグロの自然が大好きになりました。

 

2020年4月にまたモンテネグロを訪れ、93歳のヴィンチェックさんと再会できるのを楽しみにしています。私の亡父と同い年なんです。

 

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左からヴィンチェックさんとその再婚相手、野々口さん。

 

撮影:野々口 稔

 

<終わり>

前編はこちら <困難を乗り越えて出会ったクリスマスローズ>

 

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野々口 稔(ののくち・みのる)

園芸家/「HELLEBORUS倶楽部」代表。毎年クリスマスローズの原生地を訪れ、原種、分布状況、生育環境などの研究を行っている。講演活動などを通し、クリスマスローズの楽しみ方を普及。著書に『NHK趣味の園芸12か月栽培ナビ②クリスマスローズ』(NHK出版)など多数執筆。

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