バラが降るように咲くアーチ~『趣味の園芸』5月号こぼれ話<後編>
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集内容に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をお届けします。
5月号の「音楽を奏でるようなローズガーデン」「デザイナーから学ぶ バラの輝かせ方」に登場したランドスケープアーキテクトの白砂伸夫さん。誌面では横浜の2つのガーデンとその庭づくりの秘訣を紹介しましたが、白砂さんが初めてローズガーデンについて考え、デザインしたのは静岡県熱海市にある「アカオハーブ&ローズガーデン」です。
前編では、さまざまな試行錯誤をしてきたこのガーデンについて教えてもらいましたが、後編では、さらにこのガーデンに込められた白砂さんのこだわりを紹介します。
白砂さんの手がけたアーチはバラが降るように咲くのが特徴(撮影:白砂伸夫)
バラの立体的表現
「ローズガーデンのデザインで、特にバラを表現するためにこだわっているのはバラの立体的な表現です。多くのバラ園のバラはブッシュローズが中心で目線より下に花を咲かせ、バラの花を上から眺める、というのが一般的でしたが、これはバラの一面しか表現していません。バラという植物の本来的な性質はつる性であり、この性質を生かしてバラを立体的に溢れるように咲かせば、降るように咲く圧倒的な感動を生みだせます。」
「しかし、つるバラは秋には咲かないのでつまらないという意見もあるかもしれません。基本的にバラの咲く量はバラの枝の量と比例するので、枝の多いつるバラはそれだけ一度に多くの花を咲かせ、低いブッシュローズでは作り出せない感動空間が表現できます。秋はつるバラに期待せず四季咲きのバラを楽しめばいいのです。」
「アーチやポールによりバラを高く伸ばすとバラの本来の魅力が引き出せます。この時、注意したいのは誘引の仕方です。アーチの上にバラを這わすのが一般的ですが、それではバラがアーチの上に咲いてしまい、せっかくのアーチの魅力は半減してしまいます。バラはアーチの上から垂れるように咲かすと、バラの花がフワッとアーチから溢れ、アーチをくぐる楽しさが生まれます。そのためには、アーチの間隔を長くして、バラの枝がアーチの下に垂れ下がるようにするのがポイントです。」
「また、多くの栽培教本にあるような、しっかりアーチに巻きつける方法では、バラの持つ自然な風情が失われるので、軽くとめる程度のほうがバラは溢れるように咲き乱れ、バラの本来の姿になってきます。そこにクレマチスなどを絡めるとさらにバラは引き立ちます。アーチやポールはバラが上に伸びる支柱程度に考えたほうがいいでしょう。」
「120点のローズガーデン」とは?
「バラだけで100点を目指すのは、大変な努力が必要であり疲れてしまい、バラを楽しむ余裕がなくなります。『調和』こそが自然の姿であり、バラと他の植物を組み合わせ調和を生み出せればバラの点数は70点でもいいのです。ほかの植物で50点をとれば、合わせて120点のガーデンになります。もちろんそこにつるバラが加わればさらに表現の点数は高くなります。
四季それぞれの他の植物と混植することでハーモニーはより豊かに響き、天からこぼれ落ちるようにバラが咲けばローズガーデンは至福の時となります。
芭蕉は『松のことは松に習え、竹のことは竹に習え』と言ってます。バラのことはバラに習うのが一番です。」
耳を澄ましてバラの言葉をまず聞いて見ましょう。
バラ以外の植物も組み合わせ、自然と調和したガーデン(撮影:白砂伸夫)
バラとそれ以外の植物が立体的に組み合わされて、まさに120点のガーデンに(撮影:白砂伸夫)
<終わり>
(撮影:竹前朗)
白砂伸夫(しらすな・のぶお)
ランドスケープアーキテクト。神戸国際大学国際文化ビジネス・観光学科教授。ランドスケープデザインとガーデンデザインを融合した景観づくりで世界的に活躍。2017年開催の「第33回全国都市緑化よこはまフェア」では統括アドバイザーとして横浜にある3つの庭を再整備し、横浜をバラが咲き誇る名所に変えた。ローズガーデンのデザインにより日本造園学会賞受賞(2018年)。作品集「ローズガーデンデザイン」が世界バラ会連合(WFRS)からLiterary Awardを受賞(2018年)。
「テキストこぼれ話」では、『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開しています(毎月2回更新予定)
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5月号では、「音楽を奏でるようなローズガーデン」「デザイナーから学ぶ バラの輝かせ方」の2本の記事で、白砂さんの作曲するようにローズガーデンをつくる方法を紹介しています。