藤川史雄さんに聞くコーデックス<前編・コーデックスの境界とは?>『趣味の園芸』9月号こぼれ話
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集内容に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をお届けします。
9月号は多肉植物特集。なかでも肥大した根や茎を楽しむコーデックスに大きく焦点を当てています。特集内の記事「まだまだある 育てて楽しい コーデックス的植物」で、ジャンルの境界を超えたコーデックス的な植物の楽しみ方を教えてくれた藤川史雄さんに、コーデックスについてざっくばらんに話をうかがいました。
広く認知されたコーデックス
編集部(以下、編):ついに趣味の園芸テキストの特集で、コーデックスが主役級の紹介をされる時代となりましたが、いかがでしょうか。
藤川史雄(以下、藤):感慨深いよね。昔は多肉植物自体がサボテンとそのほかいろいろ、というような扱いで、徐々に多肉植物に注目が集まって、それでもコーデックスなんて、さらにそのなかのマイナージャンルだったので、そういう時代を知っている人間からすると、よくも悪くも広く知られたな、と感じます。
編:藤川さんは、かなり早い段階からコーデックスという言葉を使っていましたよね。
藤:もともと塊根植物、塊茎植物といわれたり、愛好家の間では芋(いも)とか壺(つぼ)みたいな言い方で楽しまれてきたけど、イギリスの植物学者 Gordon Rowley のCaudiciform and Pachycaul Succulents(1987)という本が出たころから、意識してコーデックス(caudex)という言葉を使うようになって、『ワンダフルプランツブック2 サボテン・多肉植物・エアプランツ・食虫植物』(1998年、メディアファクトリー)で使ったのが、僕が書いたものでは最初かな。
編:そういう意味では20年以上も使われてきた言葉ですが、ここ最近は完全に定着した感がありますね。ただ、園芸雑誌を編集していても、私はいまだにコーデックスとは何か、という理解があいまいな部分があります。
コーデックス植物の一つ、パキポディウム・グラキリス(撮影:田中雅也)
タマネギはコーデックス?
藤:ある意味ではそれは正しくて、コーデックスというのは科や属などの植物学的な分類じゃなく、形態や楽しみ方を指す言葉で、種類や自生地も多岐にわたり、どこまでがコーデックスなのか、その境界はあいまいなところがあるんだ。たとえばタマネギはコーデックスか、というとすごく難しい。タマネギの玉の部分は球根(鱗茎)で、肥大してて、放置してたタマネギから芽が出てきた姿とかって、コーデックスぽいといえばコーデックスぽいよね。タマネギは、江戸時代に日本に入ってきた当初、観賞用だったという話もある。花を見るためだったかもしれないけど、球根の形も楽しんでいたのかもしれない。タマネギは極端な例としても、コーデックスとは何か、って厳密に考えると、そういう悩ましい問題が出てくる。それで、今回は、難しく考えず、コーデックスぽいものをジャンルを超えて楽しもうという内容を紹介させてもらったんだ。
9月号で紹介しているアロエ・ブルビカウリス。どことなくタマネギに似ている(撮影:丸山光)
後編では、さらに、コーデックスの話を藤川さんに聞いていきます。
藤川史雄(ふじかわ・ふみお)
園芸家。神奈川県中井町で、珍奇植物を中心に栽培・生産する「スピーシーズ・ナーサリー」を営む。各地の植物イベントに出店し「藤川商店」の屋号でも知られる。
【藤川史雄さんの関連記事】今、熱い植物「ティランジア」/今、熱い植物「タンクブロメリア」/今、熱い植物「ケープバルブ」
「テキストこぼれ話」では、『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開しています(毎月2回更新予定)
『趣味の園芸』2020年9月号(8/21発売)
「まだまだある 育てて楽しい コーデックス的植物」(p.38~)では、藤川さんに、あえてコーデックスとしての認知度の低い植物や、別のジャンルとして扱われている植物を紹介してもらいながら「コーデックス的」な植物の楽しみ方を紹介してもらっています。