藤川史雄さんに聞くコーデックス<後編・オシロイバナもコーデックス!?>『趣味の園芸』9月号こぼれ話
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集内容に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をお届けします。
9月号は多肉植物特集。なかでも肥大した根や茎を楽しむコーデックスに大きく焦点を当てています。特集内の記事「まだまだある 育てて楽しい コーデックス的植物」で、ジャンルの境界を超えたコーデックス的な植物の楽しみ方を教えてくれた藤川史雄さんに、前編に引き続き、コーデックスについてざっくばらんに話をうかがいました。
知らない名前の植物を育てたら......
藤川史雄(以下、藤):そういえば、ずいぶん古い話だけど、植物仲間と、海外のカタログをみながら、コーデックス植物(Caudiciform)って書かれてる植物をいくつか注文したことがあった。そのなかに、ミラビリス・ハラパ(Mirabilis jalapa)っていう聞いたことのない学名の植物があった。届いた塊根を育てたら、なんとオシロイバナの花が咲いたんだ。街中でよく見かけるあのオシロイバナだよ。調べてみると、オシロイバナは地下の根が芋のようになり、世界には、その根を地上部に露出させてコーデックスとして楽しんでいる人たちがいることがわかった。
路地で見かけるオシロイバナ
編集部(以下、編):ほんとですか?(その場でスマホで画像検索)ほんとですね!これはコーデックスだ。(興味がある方は、「mirabilis jalapa caudiciform」で画像検索してみてください)
コーデックスが好きなのは太古のDNA!?
藤:だから思っている以上に、コーデックスというジャンルは広いんだよ。もともと多肉植物の1ジャンルとして広まり、今コーデックスとして出回っている植物の多くは乾燥地帯のものだけど、それはサボテン多肉植物業者が扱っているから、ということもあると思う。例えば今回の9月号で伊藤さん(伊藤彰洋さん、連載「ディーププランツ入門」でアリ植物を紹介)が紹介している熱帯植物のアリダマなんかも、どう見てもコーデックスぽいけど、湿度好む植物だから、乾燥地帯の多肉植物とは管理が全然違う。コンニャクやサトイモの仲間も、それこそ芋だけど、管理が違うから多肉系の業者ではあまり扱わないよね。どちらも、芋部分を露出させて栽培すると、コーデックス的でかっこいい。ヤツガシラ(八つ頭、サトイモの一種)は特にいいね。
アリダマのヒドノフィツム・パフィー。9月号「ディーププランツ入門」で紹介(撮影:丸山光)
編:なるほど! 目からウロコのお話をありがとうございます。まだまだコーデックスは広がりのあるジャンルだということがわかりました。しかし、なぜ、愛好家は、コーデックスのような肥大してまるまるとしたフォルムに惹かれるんですかね?
藤:話半分に聞いてほしいけど、縄文のビーナスとよばれる土偶とか、原始時代のビーナスといわれる像とか、コーデックス的なふくよかな女性の形をしてるんだよ。昔はそういう女性の像が、生命力とか豊穣の象徴だったといわれてる。だから太古からの人類のDNAというか感性みたいなものが、コーデックスのような植物に魅力を感じる理由なんじゃないかな。コーデックス愛好家に男性が多いのも納得できるね。戦国時代の大名が小さな壺のような焼き物に熱狂する、マンガ『へうげもの』(山田芳裕・講談社)の世界にも通じる部分があるような気がする。
縄文のビーナス
土偶 長野県茅野市棚畑遺跡出土/芹沢長介 『日本陶磁大系 繩文 [第1卷]』
<終わり>
藤川史雄(ふじかわ・ふみお)
園芸家。神奈川県中井町で、珍奇植物を中心に栽培・生産する「スピーシーズ・ナーサリー」を営む。各地の植物イベントに出店し「藤川商店」の屋号でも知られる。
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「まだまだある 育てて楽しい コーデックス的植物」(p.38~)では、藤川さんに、あえてコーデックスとしての認知度の低い植物や、別のジャンルとして扱われている植物を紹介してもらいながら「コーデックス的」な植物の楽しみ方を紹介してもらっています。