落合英司さんに聞く、もっと知りたいマムのこと。<前編・マムの開花の秘密について>『趣味の園芸』10月号こぼれ話
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集内容に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をお届けします。
10月号で「キュートに進化中 ようこそ!マムの世界へ」「手間いらずで花ざかり! 楽しいマム栽培」の講師を務めた落合英司さん。落合さんの解説で、マムの魅力を知ったという方も多いのでは。ここでは、テキストだけでは語りきれなかったマムの開花の秘密や増やし方などをお話いただきます。
編集部(以下、編) ほんとうに多種多様なマムですが、花の咲く時期も秋だけでなく、夏、夏から秋とさまざまなんですよね。
落合英司(以下、落) そうなんです。マム(キク)は本来、秋に咲く短日植物なのですが、品種改良や人工的に光を調節して花が咲く時期を遅らせるように栽培する電照菊栽培、それからシェードで暗くするなどして開花を早める栽培法も可能なので、年間を通して花が店頭に並んでいるんです。
写真の品種「かがり弁」など、さまざまな品種が改良により生まれている(撮影:田中雅也)
編 なるほど。ちなみに短日植物ってどんな植物なんですか?
落 昼が短くなると開花するものを短日植物といいます。
編 マムの場合は、どれくらい日が短くなると花が咲くのでしょう?
落 一般的に日の長さ(日長)が13時間以下になると、花芽分化(植物が花になる芽を作るようになること)がはじまって、12~15日後につぼみが見えだし、それから50日くらいで満開になるようです。
編 時期はいつごろでしょう?
落 だいたい、8月20日くらいをすぎると日の長さが13時間台に入ります。そこから花芽分化がはじまって、9月中旬ごろまでにはつぼみが見え始めます。そして、10月に入ると開花が始まります。
編 マムと同じ短日植物の花って、ほかにどんなものが?
落 コスモスやカランコエ、ポインセチアなどです。花以外ならイネもそうですね。
秋の花の代名詞ともいえるコスモス(撮影:成清徹也)
編 へー、イネも。
落 マム(キク)は短日植物とはいいますが、ほんとうは日照時間に反応しているのではなく、夜(暗い期間)の長さ、しかも連続した長さに反応しているんです。
編 ポイントになるのは暗さなんですね。
落 そうです。だから、夜間でも照明が当たっているような明るい場所にマムを置いてしまうと花芽分化はすすみません。
編 それは気をつけないと。
落 自分で移動できない植物は、生育が難しい過酷な季節が近づくと、花を咲かせて種をつけて生き延びようとします。その過酷な季節をキャッチするための手段が日長なんです。日長が気温の変化の前ぶれになっているんです。
編 植物ってかしこいですね。
落 マムのような短日植物は秋をいち早く感じて、花を咲かせます。それは、気温が下がる過酷な冬がくるまえに、実をつけ種子を残そうとするからなんです。
編 冬に備えるために、秋のうちに美しい花を咲かせるんですね。それを知ると、今年の開花はまた一味違った気持ちで見られそうです。
秋には美しい花を咲かせる(撮影:田中雅也)
落合英司(おちあい・えいじ)
園芸研究家。鳥取大学大学院農学研究科修了。都内の園芸関連会社に勤務。パンジー&ビオラなどの育種に携わり、草花の品種や栽培に造詣が深い。フットワーク軽やかに各地の生産現場から最新情報を収集している。
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『趣味の園芸』2020年10月号(9/19発売)
10月号の「キュートに進化中 ようこそ!マムの世界へ」「手間いらずで花ざかり! 楽しいマム栽培」では、落合英司さんが楽しいマムの世界と、詳しい栽培方法をお伝えします。