縁起物植物とともに迎える明るい新年
松竹梅をはじめとした新春を寿(ことほ)ぐ縁起物植物たち。そのいわれや特徴を、園芸研究家の小笠原誓(おがさわら・せい)さんに教えてもらいました。
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ふだんは洋風の生活をしているのに、いざ正月となると松竹梅を飾ったり、和のテイストを取り入れたりします。少し不思議ですが、新年を寿ぐ伝統的な植物を飾る文化が、日本人の心の中に根づいているようです。
ベースにあるのは、中国由来の「歳寒三友」の思想です。"三友"とは「松・竹・梅」を指します。寒さが厳しい環境の中でも、松と竹は常緑を保ち、梅は早春にほかに先駆けて花を咲かせ、やわらかい香りで人を和ませます。節度を守り、不変の志と豊かな心をもつものとして尊ばれてきました。
また、松は、生命力の強さから不老長寿、竹は平安・子孫繁栄、梅は子授け・安産を象徴するものとしても捉えられてきたのです。
こうした思想が日本に伝わったのは平安時代とされます。
日本では、中国とは違う意味が加えられました。松は年中緑をたたえる常磐木(ときわぎ)であることから、トシガミサマを家に迎えるとき、その依代(よりしろ)とする考え方です。門松が飾られるのはそうした背景があります。植物の特徴を比喩的に捉えたり、植物のもつ力に思いを託したりしながら新年を寿ぐ――こうした楽しみ方のできる植物をご紹介していきます。
難を転ずる ナンテン
「南天」という和名は、漢名の「南天燭」を簡略化したものと考えられていますが、"難転"、つまり「難を転じて福となす」に通じることから、吉祥木の一つ、迎春の花木としてよく用いられます。
また"成天"という字の当て方もあり、「万事成就する」と考え、縁起のいい木ともいわれます。
江戸時代に出版された、図入りの百科事典『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』には、「庭中に植えて火災を避くべし」と記されていますが、同様のことは多くの古書にも書かれています。地方によっては、門口に植えておくと火災だけでなく、魔よけにもなると考えられています。
一般的に紅葉するのは落葉樹で冬には葉がなくなります。ナンテンは常緑樹ですが珍しく紅葉します。冬に赤い実と葉を楽しめるのも愛される理由の一つです。
また、ナンテンは縁起物として、長年にわたり品種改良が繰り返されてきました。代表的なものが錦糸ナンテンです。江戸時代後半には、斑入り品種の栽培が盛んになり、葉の芸を楽しむために改良された錦糸ナンテンも数多く作出されました。江戸期に出版された、斑入り植物の図集『草木錦葉集(そうもくきんようしゅう)』には、当時で47種の斑入り品種が掲載されています。
錦糸ナンテンにも種類があり、「玉獅子(たまじし)」は、獅子咲きをイメージしたと思われます。中心部分の葉の密度が高く、獅子が舞っているイメージが伝わってきます。多くの品種は、秋に紅葉します。
*テキストでは金のなる木やダイダイ、マンリョウなども紹介しています。