樹齢300年以上という"シャングリラローズ"~『趣味の園芸』5月号こぼれ話<後編>
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集内容に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をお届けします。
5月号「そもそもバラってどんな植物?」で、植物としてのバラの基礎知識を教えてくれた上田善弘さん。世界のバラの自生地を調査してきた上田さんが、私たちが普段見られない貴重なバラの野生種について、こぼれ話として教えてくれました。
前編では、唯一の単葉バラであるロサ・ペルシカと、赤く大きなとげが美しいロサ・オメイエンシス・プテラカンサが登場しましたが、後編では、上田さんが野生種のバラで最も巨大な樹木だろうという"シャングリラローズ"についてご紹介します。
チベットの入り口、シャングリラでみた巨木バラ
世界最大の樹木状の野生種バラ、ロサ・プラエルセンス(撮影:上田善弘)
2019年にバラの野生種の調査で中国四川省、雲南省を訪ねたときでした。雲南省のシャングリラ(香格里拉)から麗江に向かう途中、ガイドの故郷である小中甸(標高3200m)で見たのがロサ・プラエルセンス(Rosa praelucens)です。5月号でも書いたように、バラは木本類(木)ですが、幹を太くして成長していくのではなく、新しい枝に若返りながら生きている植物です。その例外で樹木状になるバラがサンショウバラなのですが、このプラエルセンスもサンショウバラと同じ亜属のバラなのです。時期的に、まだ芽を出してはいませんでしたが、その巨大さに圧倒されました。世界で最大の樹木状のバラだといえるでしょう。写真の株の樹齢は300~400年と推測されます。ちょっと難しい話になりますが、プラエルセンスは、染色体が十倍体であることが判明しました。これもバラの倍数体では、判明している中で最高次です。
株周りは1m以上あった(撮影:上田善弘)
シャングリラに自生していることから、このプラエルセンスは「シャングリラローズ」と呼ばれています。どうしてもこの巨木に花が咲いている姿をひと目見たいと、2020年にも現地を訪れる予定でしたが、新型コロナの影響で訪問できず、涙を飲みました。
落ち着いたあかつきには、必ずシャングリラローズの開花を見に行きたいと思います。(上田)
「シャングリラローズ」の花。ガイドの林森さんが送ってくれたもの。
前編はこちら!
撮影:玉置一裕
上田善弘(うえだ・よしひろ)
40年にわたりバラの調査研究を続けている。千葉大学園芸学部助教授、岐阜県立国際園芸アカデミー学長を経て、花フェスタ記念公園理事。現在も四季咲きバラのルーツを探るために中国を訪れ調査中。バラのコンクールの審査委員長も数多く務め、『別冊趣味の園芸 バラ大図鑑』(NHK出版)の監修も務めた。
「テキストこぼれ話」では、『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開しています(毎月2回更新予定)
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バラは誰もが見たことがある花です。でも、どんな特徴や性質があるか、育てるにはどんなお世話をするのか、知らないことも多いのでは? 上田さんが、初めの一歩からお伝えします。