植物の化学成分とは何だろう? 植物が生きるために備えているもの
私たちを楽しませてくれる美しい花や果実。身近な植物を薬用植物学の世界からとらえ直すと、植物が生きるために備えている一面が見えてきます。金沢大学附属薬用植物園園長の佐々木陽平(ささき・ようへい)さんが教えてくれました。
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植物が生きるために備えているもの
動物と違い、生活の場所を変えることができない植物はいろいろな工夫をしています。植物が花をつけるのは、昆虫に見つけてもらい種子をつくる手助けをしてもらうためです。訪れる昆虫の種類の好みに合わせて花を大きくしたり、目立つ色をつけたり、香りを出したりしています。赤く目立つ果実は動物に見つけてもらい、おいしい果実はたくさん食べてもらうためです。果実を食べた動物はふんと一緒に種子を散布することになります。
一方、植物は昆虫や動物に食べられないように工夫もしています。植物は生きるために必要な葉や茎、根を食べられては困るのです。そこで植物は一般に、昆虫や動物が嫌がる匂いを出したり、食べられないような工夫をしています。さらに病気の原因となる菌やウイルスから身を守るために、これらを寄せつけない工夫も体全体にしています。
植物の化学成分とは何だろう?
このような工夫のもとになるものが化学成分によるものなのです。これらの化学成分が私たちの体にとって何らかの害になる場合、その化学成分を含む植物を「毒草」、「有害植物」と呼んでいます。
植物の化学成分は、昆虫や動物にとっては毒でも私たち人間には無害であるもの、昆虫や動物には無毒でも人間には害があるもの、があります。きちんとリスクを知ることが大切です。
例えば、植物が昆虫や動物を寄せつけないための工夫として、ウルシやイチョウのぎんなんのように、触ると 「かぶれ」させる化学成分を含むものがあります。また、昆虫や動物が嫌がる化学成分の一つがアルカロイドです。アルカロイドの種類には、動物や昆虫などの体の動きを混乱させたり止めたりしてしまうものがあるので、この化学成分がたくさん体に入ると死んでしまうことがあります。
植物はアルカロイドを体全体に巡らせたり、一番食べられたくない芽の先端部分に集めたりしています。それでも昆虫などに食べられた場合、傷口をふさいで汁が漏れるのを止めたり、病気の侵入を防いだりする必要があります。そのために植物はタンニンなどのポリフェノールやアルカロイドなどで、これを防いでいます。
私たちは植物を身近で楽しむ場合、植物の有害性に注意することも必要です。
触ったり食べたりすると人体に影響がある化学成分を含む植物の一例を、下記のページで紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
『趣味の園芸』9月号の「園芸生活の思わぬ落とし穴」では、植物の化学成分と私たちが気をつけたいことについて、詳しく紹介しています。