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<ランの情報はどう整理されているか>ラン研究のレジェンド・遊川知久さんに聞く【趣味の園芸1月号こぼれ話・前編】

<ランの情報はどう整理されているか>ラン研究のレジェンド・遊川知久さんに聞く【趣味の園芸1月号こぼれ話・前編】

ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集内容に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をお届けします。

 

今回は、1月号ラン特集「特別のランから『みんなのラン』に」で対談をしていただいたラン研究のレジェンド・遊川知久さんと、新進気鋭のラン栽培家・清水柾孝さんが登場。ランについて、さらにお話を伺います。

 

ランは世界に原種が約 28,000種あり、今も毎年500種くらいずつ新種が見つかっています。さらに交配種があって、植物の中でいちばんの大家族です。

前編では、筑波実験植物園で研究員を務める遊川さんに<ランの情報はどう整理されているか>、お話を伺いました。

 

*  *  *

 

編集部(以下、編) ランはこれだけ種類が多くて、新種や交配種もどんどんふえています。一体どうやって情報が整理されているのでしょうか。

 

遊川知久(以下、遊) 原種は、イギリスのキューガーデン(キュー王立植物園)が中心になって、インターネットで学名検索できるデータベースを運営しています。日本にはそういうサイトがないので、そのデータベースを見るのが一番わかりやすいですね。

[参考] World Checklist of Selected Plant Families|Kew Science

 

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筑波実験植物園で見ることができる世界最大のラン、グラマトフィルム・スペキオスム Grammatophyllum speciosum(撮影/田中雅也)

 

 新種が発表されたときも、そこに記録されるのですか?

 

 研究者がチェックをして、新種と判断されれば記録されます。ある意味、非常に主観的です。たとえばオドントグロッサムがオンシジウムになったりするなど、特定の研究者の見解にランの学名は影響を受けています。それが交配種の登録でも名前が安定しない理由です。とはいえ、日本のラン業者の皆さんはまじめだから、そのたびにちゃんと修正しているのです。

 

 遺伝情報などの違いから生物の系統関係を調べた結果を採用した APG分類でも学名がよく変わります。遺伝情報を使った解析が進んだことから、ランの分類は影響を受けているのでしょうか。

 

 大いに受けています。ランの場合、ラン科が他の科に変わることはないけれど、科の下のレベルの属名はまったく変わってしまう。

 

 ランの交配種には、サンダーズリストという戸籍簿のようなものがあると聞きました。

 

 イギリスのサンダー(Henry Frederick Conrad Sander、1847-1920)という園芸家が 1895年に交配種の登録を始めて、19世紀以降の記録が今日につながっています。

栄養の入った寒天の培地にタネをまく方法が確立し広まったのが1930年代ですが、それまではタネを発芽させることに、ものすごく難儀していました。そのような時代にランの交配種をつくるのは、キクやバラで新品種をつくるのとは違う価値があったんです。

 

 もっとも古い交配種は?

 

 1856 年に咲いたカランセ・ドミニーです。サンダーズリストには交配種の名前だけでなく、交配親(種子親、花粉親)、登録年、登録者などが収録されているので、原種までさかのぼって追えるのが、ランがほかの園芸植物と違うおもしろさです。馬や犬のブリーディングの世界とも似ています。

 

編集部 私たちもサンダーズリストを見ることができるでしょうか?

 

 RHS(英国王立園芸協会)が登録の管理を継承しているので、RHSのサイトから入れます。

[参考] The International Orchid Register|RHS Gardening

 

 遊川さんが交配したランもあるのですか?

 

 うちの植物園ではランの交配種は一切やらないポリシーなので、育種はしていません。ですが、学生のときにやったときのものはありますね。育種はクリエイティブですからね。交配親の組み合わせからどんな花咲くのか想像することにはじまって......、今も考えるとワクワクします。

 

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筑波実験植物園のバックヤードには伸び伸びと根を垂らすランがたくさん。ラン本来の生きる姿を見せている(撮影/田中雅也)

 

 愛好家の勲章というか、これまでにない花を目指してやっている人もいますね。

 

 ランの場合、新しい交配種をRHSに申請して登録されれば、自分がつくった品種を世界中にその名前で広めることができます。ランをやっていて楽なのは、インドネシアでもエクアドルでも、ミャンマーや中国でも、世界のどこへ行ってもランの名前でやりとりできるから、英語圏でない人とでも大体用が足りるんです。場所によって名前が変わることがないですから。

 

 ランは世界の共通言語なんですね!

 

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バンダ・コエルリア Vanda coerulea。翡翠蘭(ひすいらん)といわれる通り、青い花色が美しい。中国南部から東南アジア、南アジアに生えるラン(撮影/田中雅也)

 

後編は、新進気鋭のラン栽培家・清水柾孝さんに<サラリーマンのラン生活>について伺います!

 

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遊川知久(ゆかわ・ともひさ)

1961年広島県生まれ。千葉大学大学院博士課程修了。国立科学博物館植物研究部・多様性解析保全グループ長および筑波実験植物園研究員。植物の多様性を知り、守り、伝える取り組みを進めている。

 

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テキストこぼれ話」では、『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開しています(毎月2回更新予定)

 

『趣味の園芸』2022年1月号(12/21発売)

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花はきれいだけれど、敷居が高くてなかなか近寄れない......。そんな "高嶺の花" ランにおののく編集部員OとKを見かねて、ラン研究のレジェンド、遊川知久さんがランの生態と育て方のポイントについて教えてくれました。ふるさとの環境を知っていると、ランの栽培が一気にわかりやすくなりますよ。

 

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1月号の内容はこちら

 

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