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ビカクシダの栽培とその魅力について、さらに突っ込んで杉山拓巳さんに聞いてみた!【趣味の園芸7月号こぼれ話・前編】

ビカクシダの栽培とその魅力について、さらに突っ込んで杉山拓巳さんに聞いてみた!【趣味の園芸7月号こぼれ話・前編】

ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集内容に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をお届けします。

 

今回は、7月号インドアグリーン特集の「今日からはじめるビカクシダ」で、ビギナーに向けてビカクシダの育て方を教えてくださった杉山拓巳さんが登場。ビカクシダについて、ちょっと奥深いお話を伺います。

 

ビカクシダはとかく迫力あるフォルムが目に留まりますが、前編では、杉山さんが注目するビカクシダの別の魅力の一つ「枯れの美学」についてお話しいただきます。

 

編集部(以下、編):杉山さんは愛知県でビカクシダをはじめとする熱帯植物の生産・育種に取り組まれていますが、今回は「枯れの美学」についてお話しくださるそうですね。しかし、枯れることと美との間に何か関係があるのでしょうか。

 

杉山拓巳(以下、杉):ビカクシダを育てている方から時々「葉が枯れてしまったけれど、どうすればよいか」という質問を受けるんです。

 

編:確かにビカクシダは、寒い季節になれば葉が枯れますが。

 

杉:そういうことではなくて、生育期にほかの葉が生き生きとした緑色なのに、別の葉が茶色になって枯れてしまった、という悩みですね。

 

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緑色の胞子葉と対照的に、茶色く枯れた貯水葉(園芸品種'メラメラ')。

 

編:病気や水やりの失敗などということでしょうか。

 

杉:もちろん、そういうケースもあるでしょう。その場合の対処法はまたの機会に譲るとして、ここでお話ししたいのは病気でもなく栽培管理の失敗でもなく、自然に枯れて茶色になる葉、つまり貯水葉(外套葉)のことです。悩む必要のないことについての話です。

 

編:悩む必要のないことで悩んでいる人が、その悩みから解放されるわけですね。

 

杉:貯水葉というのは、一般的に枯れるのが早いわけです。胞子葉が青々として元気なときに貯水葉が茶色く枯れてしまうので、ビカクシダを育て始めたばかりの人は「あれ、自分は何か間違えてしまったのだろうか?」と悩むことがあります。でも、それは自然の現象なので、悩む必要はない。

 

編:普通の植物では、ほかの葉が元気なときに別の部分の葉が枯れた場合は、一般的には栽培の失敗や病気が原因であることが多いと思います。だからビカクシダの葉が枯れたときも、知らない人は栽培の失敗や病気ではないかと考えてしまうわけですね。

 

杉:そういうことです。貯水葉というのは、文字どおり貯水の役割をもつ葉です。植物体の回りをぐるりと覆うように展開して、その内側に水分を保持することが主たる役割なので、枯れても支障がないのでしょう。多くの種類では、胞子葉よりもずっと早く枯れます。

 

編:知らなければ、確かに驚くかもしれませんね。「なんで今ごろ枯れちゃったんだろう」と。

 

杉:特にアンゴレンセ、アルキコルネ、ヒリー、ワリチー、ウィリンキーなど、雨季と乾季がはっきりしている熱帯原産の種類は、貯水葉が早めに枯れます。一方、スーパーバム、グランデ、ワンダエ、ホルタミーなどの熱帯湿潤地域原産の種類には、緑色を維持しあまり枯れないものもあります。全体的にみると貯水葉が枯れる種類のほうが多いので、先ほどお話したような悩みを抱く人がいるわけです。

 

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貯水葉が枯れた原種のワリチー(左)と、園芸品種のウィリンキー'ワイルド・バリ'(右)。

 

編:なるほど、そういう違いがあるのですね。ところで今回のテーマは「枯れの美学」だったはずですが。

 

杉:そうでしたね、今回の話のキモについてお話ししましょう。枯れる貯水葉は私たちの先入観を問い直しているんです。私たちは葉が茶色になる、枯れる、ということは悪いことだと思っているでしょう。でもビカクシダの貯水葉は枯れてナンボというと言いすぎですが、枯れることは少しも悪いことではない。

 

編:貯水が主な役割だからですね。

 

杉:しかもね、貯水葉の枯れた茶色と胞子葉の生き生きとした緑色の対比はたとえようもなく美しいでしょう? ほかの植物でこれほど枯れ葉と緑の葉の対比が際立った種類はあまりないはずです。特にアンゴレンセやアルキコルネは特徴的で、この対比はビカクシダの大きな魅力の一つだと僕は思っています。貯水葉が早々と枯れるからこそ生まれる美しさであって、これがつまり「枯れの美学」です。

 

編:そういうことでしたか! 確かにビカクシダでは、茶色の葉と緑の葉の色の違いが大きな魅力になっている種類が目にとまりやすいかもしれません。しかもアルキコルネなどは枯れた葉があめ色につやつやと輝いているから、いっそう印象的です。

 

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アルキコルネ(原種)。枯れた貯水葉の表面があめ色になり美しい。

 

杉:ここまでとは別の角度から、もう一つおもしろい話をしましょうか。僕は貯水葉を「環境変化をはかるバロメーター」だと思っているんです。環境が変わると、本当にあっという間に枯れます。変化が大きいほど枯れるスピードも速い。たとえば、園芸店で株を購入して家に持ち帰ると、あれよあれよという間に枯れることがある。これは、生産者の栽培環境と自宅の栽培環境に大きな違いがあることを示しています。貯水葉は枯れるものだと言いましたが、このように、あまりに急速に枯れたらやはり要注意です。

 

編:そういうときには、栽培環境を見直したほうがいいということでしょうか。

 

杉:ビカクシダは比較的丈夫な種類が多いので、必ずしもそうでもありませんが、毎日注意して観察するといいでしょうね。自分の栽培環境に慣れるまでは、少し調子を崩すおそれがあるからです。貯水葉をバロメーターとすることで、自分が見すごしがちなことに気づける、という側面があります。

 

編:貯水葉は「枯れの美学」にもとづく観賞価値をもつだけでなく、「環境変化のバロメーター」という機能も併せもつ、ちょっと特別な葉だと。

 

杉:そのとおりです。ビカクシダは楽しみ方がいろいろあって、興味の尽きない熱帯植物です。もしまだ育てていなくて、何か一つインドアグリーンがほしいと思ったら、ぜひビカクシダから始めてみてください。

 

編:ビカクシダ、侮れませんね~。ありがとうございました。

 

撮影:田中雅也

 

後編は、ちょっと過激な<ビカクシダの耐寒性テスト>について。栽培の基本的な考え方をめぐるお話です。

 

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杉山拓巳(すぎやま・たくみ)

熱帯植物栽培家/1978年、愛知県生まれ。愛知県でビカクシダやブロメリアなどをはじめ、数多くの熱帯植物、観葉植物の育種・生産に取り組む。「熱帯植物栽培家の気まぐれ塾YouTube版」やInstagramのライブも人気。

 

★杉山拓巳さんによるビカクシダの栽培本が誕生します!<2022年8月18日発売> 

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『NHK趣味の園芸 12か月栽培ナビNEO 観葉植物 ビカクシダ』
主要品種の解説と各月の詳しい栽培法を網羅した、ビジュアルページも美しいファン待望の1冊!
定価1,650円(本体1,500円+税10%)、A5判並製、112ページ

 

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テキストこぼれ話」では、『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開しています(毎月2回更新予定)

 

『趣味の園芸』2022年7月号(6/21発売)

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杉山さんが、入門者にも育てやすく、栽培を続けるほどに迫力を増す人気品種を例に、ビカクシダの育て方の基礎をお伝えします。

 

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7月号の内容はこちら >

 

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