■細胞の無限生長と分化全能性が巻き起こしたラン界の変貌 ラン界で共生培養と無菌培養が対立していた頃、植物組織培養学問は現在のような大量増殖という目的では行われておらず、「生命現象の基本は細胞である。」という仮説を証明するためのみに研究されていた。
すなわち分化全能性(すべての若い体細胞はたった1つの細胞でも新しい植物体に再生できる能力)のことである。その理論を1902年に掲げたHaberlandtはあまりにも先を急ぎすぎた先駆者であったといえよう。
1934年のWhiteの成功により組織培養学の研究にも拍車がかかった。その後30年を経て、フランスのG. Morelは頂芽を培養することによってウイルスを除く方法を発見し、さらに注目すべき栄養繁殖のテクニックを考案した。メリクロン時代の幕開けである。
最近エイズウイルスが人類に猛威を奮っているが、ウイルスというものは、1度体内に侵入すると奥深く潜み撲滅させるのに困難を要するものである。露地栽培している作物は、定植された段階でウイルスが植物体内に侵入し、数年で侵されてしまうため、作物の収益性が劣ってしまう。
それ故Morelは当初、ウイルスの被害の多いダリアやジャガイモをウイルス病から治癒させるために茎頂培養を用いてきた。つまり「茎頂部の生長点組織のみがウイルスに侵略されない」という仮説を証明するために研究が行われていたのである。彼はただウイルスに侵されていない部位を試験管内で挿し木することによって植物体再生を行っていた。
Morelが実験材料としてダリア、ジャガイモの次にシンビジウムを選んでいなかったら、現在の様な世界の洋ラン事情には至らなかったといっても過言ではないだろう。
というのも、シンビジウムを選択したことにより、試験管の中で生長点が小球体状に発達し無限に増殖することを発見しえたからである。この芽の塊をプロトコーム状球体(Protocorm Like Body,PLB)といい、分割することにより限りなく増殖が可能となる。この発見により植物組織培養学は、『急速大量増殖』という武器を兼ね備えることができたのである。
以上が、ランの繁殖法という未知の世界を人類が開拓してきた足跡である。
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動物細胞が刺激によって初期化するっていう今回の発見は生物学の常識を揺るがすものがありますね。
返信する興味深く拝読させて頂きました。
返信するところで、「茎頂部の生長点組織のみがウイルスに
侵略されない」という仮説の根拠は何だったの
ですか?
或いは、いわば、生後間もない乳児の如く、ウイルスに
侵略されるのが植物体の組織・細胞の中で最後に
くる可能性が高いから、汚染されている可能性が
最も少ない、ということなのでしょうか?
この仮説、挿し芽・挿し木にも応用できるのでは
ないか、と考えたりしているのですが-----。
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