ポピュラーなのに人気がなかったアジサイ...川原田邦彦さんにアジサイについて聞いてみた!<後編>趣味の園芸6月号こぼれ話
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める「テキストこぼれ話」、今月は6月号特集「アジサイ」に関連して、アジサイ特集で講師を務めた川原田邦彦さんにインタビュー。
前編では、川原田さんとアジサイの出会いと、ヤマアジサイから始まるアジサイブームの始まりについて伺いました。
編集部(以下、編):人気が高まる前は、アジサイはあまりなじみのないものだったんでしょうか?
川原田(以下、川):梅雨時を表現するイラストなどで、アジサイとカタツムリが描かれたり、季節の風物詩としては昔から親しまれていました。でも出回っているのは、いわゆる在来種といわれる水色とピンク色のアジサイだけ。
しかし、80年代後半からいろいろな花色、花型が次々に登場してきました。
前編でも話したように、今や定番の'クレナイ'もこの時期に登場しました。
'クレナイ'
編:もっと昔からあった品種かと思っていました!
川:'黒姫'などは昔からありましたが、'クレナイ'は登場してから30年ほどなんです。'クレナイ'は国内で見つかった自生種ですが、この時期に海外で育種された品種がたくさん導入され、これがアジサイの人気を後押ししました。
編:バリエーションが増えたんですね。
川:日本のヤマアジサイやガクアジサイをもとに、ヨーロッパでつくられた多様な品種が国内に導入されました。
江戸時代にシーボルトが日本のアジサイを持ち帰ると、ヨーロッパですぐに育種が始まりました。ヨーロッパでつくられた品種は明治以降、何度も何度も国内に導入されましたが、定着はしなかったんです。しかし、1980年代後半以降、アジサイへの関心が高まるとともに一気に受け入れられ、その人気は未だに続いています。
編:『趣味の園芸』6月号アジサイ特集で取材したアジサイの名所として知られている長谷寺も、もともと植えられていた在来種に加えて、積極的にアジサイを植えるようになったのは同じ時期だそうです。
神奈川県鎌倉市 長谷寺(はせでら)のアジサイ
川:いろいろな要因が組み合わさって、その時期にアジサイに心引かれた人が多かったんでしょうね。
これだけアジサイがポピュラーになったのはいいんですが、何も問題がないわけではないと思っています。
編:といいますと?
川:趣味の園芸でも、鉢物のアジサイのことを「ハイドランジア」や「西洋アジサイ」などと呼ぶことがあるかと思います。
編:ありますね。
川:そして、これらの種類について「耐寒性が低いので、冬の寒さを避ける」という説明をすることがあるかと思います。
しかし、ヨーロッパから入ってきたアジサイの園芸品種は基本的にヤマアジサイとガクアジサイからつくられた品種で、関東地方以西であれば一般的なアジサイの育て方で大丈夫なんです。
編:ではなぜ、「西洋アジサイ」「ハイドランジア」が寒さに弱いといわれるようになったんでしょうか?
川:関東地方以西よりも寒いヨーロッパでは冬になると防寒をしているから、同様の育て方を推奨しているに過ぎないんです。私が住んでいる茨城県では、海外から入ってきたアジサイの品種であっても、屋外管理でちゃんと越冬し、開花できていますし。アジサイのポテンシャルを意味もなく低く見積もるのはもったいないと思いますよ。「西洋アジサイ」なんて意味のない呼び方も止めた方がいいですよ。
編:確かに、ほかのアジサイと同様に育てられるなら、そう言って欲しいですよね。
川:「ハイドランジア」という呼ばれる品種も、「西洋アジサイ」という呼び方同様、ヨーロッパから入ってきた品種を指していることが多いと思いますが、これも意味のない呼び方です。要は「アジサイ」ってことですから。 どうせ「ハイドランジア」という呼び方をするなら、同じハイドランジア属の植物を全部含めてしまい、ハイドランジア属=アジサイととらえてしまえばいいのに、と思うこともあります。
編:趣味の園芸で「アジサイ」というと、ガクアジサイ(ハイドランジア・マクロフィラ Hydrangea macrophylla)とヤマアジサイ(ハイドランジア・セラータ Hydrangea serrata)及びその交配種やカシワバアジサイ(ハイドランジア・クエルシフォリア Hydrangea quercifolia)が中心です。
日本語での正式な呼び名である和名に「アジサイ」が入らないアメリカノリノキ(ハイドランジア・アルボレスケンス Hydrangea arborescens)'アナベル'やノリウツギ(ハイドランジア・パニキュラータ Hydrangea paniculata)は紹介しにくいところがあります。
'アナベル'
川:もったいない!同じハイドランジア(アジサイ)属なんだから、一緒に紹介してしまえばいいのになあ、と思います。
編:6月号のアジサイ特集記事「おもしろいアジサイの仲間」では、川原田さんにそのあたりの種類の、「いわゆるアジサイではない種類」の最新の品種をご紹介いただきましたね。
川:いっそアジサイ科全体を「アジサイ」と呼んでしまえば、イワガラミ(スキゾフラグマ・ハイドランジオイデス Schizophragma hydrangeoides)も扱えます。
これは、ツルアジサイ同様つるになって樹木や壁面を這い上っていく植物なんです。ツルアジサイよりも乾燥に強いんです。
編:ということは、水切れにも強くて育てやすそうですね。
川:ヨーロッパでは石造りの家屋に這わせて育てている例をみたことがあります。
アジサイというと、こんもりと繁らせて育てるイメージを持つ方が多いかと思いますが、ツルで伸びるものだと、味気ないブロック塀に這わせて育てることもできます。
日本ではアジサイというと低木ととらえられることが多いですが、ノリウツギであれば2〜3mの高木として育てることもできます。
編:しかも、ヤマアジサイやガクアジサイほど剪定に気をつかわず、春先に剪定できるのはいいですよね。
川:従来の「アジサイ」というくくりに収まらない種類からも、魅力的な品種が登場してきています。そうした品種の最新情報を、趣味の園芸6月号「おもしろいアジサイの仲間」で紹介しているので、ぜひご覧ください。
ところで、つるものつながりで、フジの新しい仕立て方を提案しようと思っていて...
編:まだまだ話は尽きませんが、今回はここまで!
いわゆる「アジサイ」以外の種類のなかから、川原田さんがおすすめの最新品種を紹介してくれている『趣味の園芸』6月号。
アジサイの育て方についての知識を問う「アジサイ検定」も掲載しています。
お見逃しなく!!
★川原田邦彦(かわらだ・くにひこ)
1958年、茨城県生まれ。造園、庭木花木の生産などを広く行う。特にモミジ/カエデ類、アジサイの仲間についての造詣が深い。近著に『NHK趣味の園芸 12か月栽培ナビ⑨ アジサイ』。
『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開します。(毎月2回更新予定)