ところ変われば"菜っ葉"変わる 日本の伝統雑煮
わが家の雑煮がスタンダードと思うことなかれ。各地には多彩な雑煮が伝わっています。「花冠陽明庵」主人で作家・食品学者の松本栄文(まつもと・さかふみ)さんに地方色豊かな伝統雑煮を紹介してもらいました。
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そもそも雑煮は、室町時代の京都、宮中の生まれ。公家衆から全国の大名家へ、そして庶民へと広がりました。雑煮の原型は、丸小餅、あわび、なまこなどをみそ仕立ての汁に入れ、かつお節を天盛りにしたもの。江戸時代に入り、関東地方で鶏肉と小松菜を用いたしょうゆ仕立ての「菜鶏(なとり)雑煮」が生まれると、「名(菜)を取る(鶏)」に通ずると武家社会に広まり、やがて各地でその土地の菜っ葉を用いるようになっていったのです。
菜っ葉は、いずれも家々の軒下で育つような身近なもの。お正月を祝う雑煮には、そういった足元の食材、日々の健康を支えてくれる菜っ葉に、1年の感謝と敬意を込めて用いました。
地方色豊かな伝統雑煮では、菜っ葉が大活躍
菜鶏雑煮に代表される小松菜をはじめ「名(菜)を持ち(餅)上げる」餅菜、「勝男菜」に通ずるかつお菜、長い=長寿を込める九条細ねぎなど縁起野菜がたくさん使われています。
米澤雑煮:せり(山形県米沢市、東置賜郡)
海産物が少ない内陸では、鶏のだしにごぼうとせりの香りを重ねて。
ねぎ雑煮:九条細ねぎ(石川県野々市市)
餅とねぎのみ。「長い」は長寿に通ずるため、細ねぎ1本を丸ごとよそう。
尾張雑煮:餅菜(愛知県名古屋市)
餅菜は「菜を餅上げる=名を持ち上げる」縁起物として欠かせない。
京極家雑煮:水菜(滋賀県北近江地方および香川県丸亀地方)
旧丸亀藩主であった京極家の雑煮は、ゆかりの地である滋賀にも伝播。
ぶり雑煮:かつお菜(福岡県宗像市)
出世魚のぶりを塩引きにして焼き、博多の伝統野菜、かつお菜を添えて。
テキストには日本各地の伝統雑煮をアレンジした冬の野菜雑煮のつくり方を掲載しています。
テキスト『趣味の園芸 やさいの時間』2020年12・2021年1月号より