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クリスマスローズの育種の歴史をさらに詳しく知りたい~『趣味の園芸』2月号こぼれ話<前編>

ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集内容に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をお届けします。

 

2月号クリスマスローズ特集では、園芸家・野々口稔さんに「多彩な花々とつづる育種ヒストリー」ということで、クリスマスローズの育種の歴史について教えてもらいました。その記事をつくる過程でさらに興味が深まった編集部員が、野々口さんに、さらに詳しくお話をうかがいました。

 

イギリスが牽引してきた育種の歴史

 

――2月号では19世紀後半にドイツやイギリスで、ヘレボルス・オリエンタリスを用いた交配種の品種改良が盛んになったとありましたが、それ以前にはクリスマスローズは栽培されていなかったのでしょうか?

 

野々口:中世ヨーロッパでは、クリスマスローズ(ヘレボルス)は、主に薬草として扱われていました。観賞用として本格的な品種改良が始まったのが19世紀後半です。

 

――2度の世界大戦で中断された品種改良が、20世紀後半にイギリスの女性育種家ヘレン・バラードさんによって再始動したとのことでしたが、そのあたりの状況をもう少し詳しく教えてください。

 

野々口:ヘレン・バラードは自生地を訪れて原種の生態や生育環境についての研究を重ね、原種の優れた形質を生かした交配を行い、1974年~1994年の約20年間に、53もの名花を作出しました。彼女が目指したのは、鮮明な花色、丸弁のカップ咲き、小輪~中輪、上向きで丈夫で育てやすい交配種であり、作出した花は現在にも通用する画期的なものでした。

また、ヘレン・バラードとほぼ同時期に活躍したイギリスの女性育種家、ワッシュフィールド・ナーセリーのエリザベス・ストラングマンの存在も忘れてはいけません。誌面にも紹介したヘレボルス・トルカータスの八重咲き個体 ‛ダイドー' を1971年にモンテネグロ(当時はユーゴスラビア)で発見したのは彼女です。イギリスの育種家、ブラックソン・ナーセリーのロビン・ホワイトが ‛ダイドー'を用いて、小輪多花性の八重咲き種(パーティードレス・グループ)を作出しました。

これらを契機として、ヨーロッパのみならず、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、日本でクリスマスローズの品種改良が進められました。特に特出すべきなのは、イギリスのアシュウッド・ナーセリーの存在です。ヘレン・バラード、エリザベス・ストロングマンの花は勿論のこと、イギリスにとどまらず、ドイツやフランスから親株となる花を収集して本格的な育種を行い、世界をリードする存在となりました。

 

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ヘレボルス・トルカータス・モンテネグロ ‛ダイドー'/撮影:野々口稔

 

日本独自の育種やトレンド

 

――戦後のクリスマスローズ育種はイギリスがリードしていたんですね。日本はどうだったのでしょうか?

 

野々口:日本での品種改良は1990年代以降に本格化しましたが、当初はアシュウッド・ナーセリー、ブラックソン・ナーセリーなどイギリスからの輸入株を親株としたものでした。しかし、日本の多くの育種家たちの努力によって、今日では世界的なレベルに到達し、さらに今後の発展が楽しみです。

 

――日本ならではの育種の方向性があれば教えてください。

 

野々口:誌面でも紹介しましたが、海外では大きな花が好まれるのに対し、小輪多花のものは日本人好みで、2000年以降に入って盛んに育種されています。一口に小輪多花と言っても2通りのアプローチがあります。一つはデュメトラムなど小輪の原種を交配に用いる方法で、もう一つは交配種の中から小輪花を選抜して育種する方法です。

いち早く原種交配を始めた大木ナーサリーは、2000年から交配を始めて、2005年より販売を開始しました。交配種からの選抜交配を始めた堀切園は、2002年から交配を始めて、2005年よりシングル、2010年よりダブルの販売を開始しました。交配種からの選抜育種では美花が高い確率で作出されて、一般の愛好家に喜ばれています。一方、原種交配では様々な花が出現して、鑑賞価値が低いものが多く出現する反面、度肝を抜くような超絶品が生まれるため、マニア達の注目の的となりました。

 

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堀切園の小輪多花のシングル・イエロー・ダークネクタリー/撮影:桜野良充

 

――日本のクリスマスローズファンには、黒花好きも多い印象があります。

 

野々口:たしかに、黒花には引き込まれる魔力がありますね。黒花の魅力にいち早く気づいた松浦園芸は、2002年に英国のアシュウッド・ナーセリーでダークチョコレートの花を入手し、黒花の育種を開始しました。当時一般に販売されているものには、誰しもが黒と呼べるような花がなく、より黒い花を作りたい、より丈夫で育てやすい花を作りたいと言う思いで育種を進め2007年頃よりこれぞ黒花という花の販売を開始しました。

 

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松浦園芸のブラック・ダブル/撮影:野々口稔

 

野々口:あとはトレンドとして忘れてはいけないのは、オーレアの存在ですね。2000年に英国のアシュウッド・ナーセリーが作出した、花弁だけでなく蜜腺(ネクタリー)までが鮮明な黄色(ゴールド)となるゴールド(オーレア系イエロー)から始まり、日本でも育種が進みました。その先駆けとなった加藤農園や広瀬園芸は、2010年頃よりオーレア系のカラーバリエーションに取り組み、2011年からシングル、2014年からダブルの販売を開始しました。オーレア系の花は、花色が鮮明となり、退色しにくい特徴があり、赤、ピンク、そして、アプリコット、グリーン、ホワイトなどさまざまな色合いのオーレアが次々に作出されました。

 

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広瀬園芸のオーレア(ダブル・レッド)/撮影:野々口稔

 

――最近では通常のダブルよりも圧倒的に花弁の数が多い「多弁化」も話題ですね。

 

野々口:多弁花は雄しべの数が正常であるため、花弁(ネクタリーが変化した部分)の数が何らかの要因でふえたと考えられています。現在、量産されている吉田園芸の多弁花は、日本で偶然出現した、通常よりも花弁が多い個体がきっかけとなっています。2005年頃より帯化花(成長点が多数化、または合体化した花)のタネを撒き始めたところ、花弁の重なりが四~五重となる多弁花が出現しました。これをもとに多弁花どうしの交配を2〜3世代繰り返したところ、花弁の重なりが七重以上の超多弁花が誕生し、2016年より販売されています。もともとは薄クリーム色の花しかありませんでしたが、シングルとの交配で花色のバリエーションもふえています。さらに現在では花弁数90枚以上の数えきれないほどの花弁が重なる花も作出されています。

 

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吉田園芸の多弁花/撮影:野々口稔

 

――詳しくクリスマスローズの育種の歴史を教えてくださりありがとうございました。これからもどんな新しい花が生まれどんな潮流を生み出していくのか、目が離せませんね!

 

お話をうかがった人

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野々口 稔(ののくち・みのる)

クリスマスローズ愛好家団体「ヘレボルス倶楽部」代表。クリスマスローズの原生地を数多く訪れ、原種の分布状況や生育環境などを研究。講演や著作などを通じて楽しみ方や栽培方法を普及している。『NHK趣味の園芸12か月栽培ナビ②クリスマスローズ』(NHK出版)など著書多数。

 

後編では、2月号で紹介した花の多くを作出した堀切園の樋口規夫さん、尚貴さん親子にインタビュー!

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テキストこぼれ話」では、『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開しています(毎月2回更新予定)

 

『趣味の園芸』2021年2月号(1/21発売)

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野々口さんは、特集「ようこそクリスマスローズの世界へ」で、「クリスマスローズってどんな花?」「クリスマスローズ2021 今年は模様で選ぶ」「クリスマスローズを極めたい」の3本の記事で講師を務めています。「多彩な花々とつづる育種ヒストリー」は「クリスマスローズ2021 今年は模様で選ぶ」内の記事です。

 

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2月号の内容はこちら

 

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